第31話 最弱故の強さ

     "アリス視点"

「んっ、」

眠りから目を覚ますとそこには見覚えのない天井があった。

(確か、私はあいつと戦って、)

「はっ!あいつは」

記憶を鮮明に思い出してきた私は起きてすぐにあの男の姿を探す。しかし、そこにいたのは目を覚ました私を見つめて笑っている理事長先生だった。

「あっ、起きたのね。キリア少年ならもう自室に戻ったよ。俺がここにいてこいつが起きたらぶっ飛ばされそうだから。って言って」

それを聞いて少し安心した。本当にぶっ飛ばしそうだったからである。

「ていうか!あいつ何者なんですか。」

プリメーラに疑問をぶつけるように尋ねる

「キリア少年かい?あれは最年少でBランク冒険者になったハンデ戦とはいえ私に勝ってしまう平たく言えば術式のないバケモノだよ。まぁ強さの秘訣は彼自身に聞くといい。私もいまいちわかっていない。」

そう言いながら保健室を後にするプリメーラ、

それを見送りながら自分も自室へと戻ろうとするアリス。

(一体なんなの、あいつ。ていうか術式がないって何!おかしすぎるでしょ。それよりもあいつの命令に対しての言い訳を考えないと、じゃないと絶対Hなことさせられる。)

言い訳を頭のギアを全て上げ考えながら、自室の扉を開ける。

「おっ!おかえり。」

そこには下着だけを履いたほかは全て裸の風呂上りのキリアがバスタオルで髪を拭きながら立っていた。

「ちょ!なんで裸なのよ!」

「えっ?風呂上りだから。」

「はやく!服を着て。」

そう言って勢いよく扉を閉めた。

「おい!もういいぞ」

入っていいと言う許可が降りたので疑心暗鬼になりながらもそっと扉を開けリビングまで歩く。そこには先に地面に座っているキリアがいた。

「じゃあまず負けた時のペナルティを決めようか。」

キリアがそう切り出すので私はその正面に座る。

「えっ、えぇーそうね。」

内心は焦っている私がそんな心のこもってない返事を返す。

「じゃあ、俺が絶対に風呂は最初に入る。そんで、そのあとに風呂を入れ直すから、そっから入ってくれ。」

「えっ、」

私は予想の斜め上の答えが返ってきて、頭が真っ白になりそんな返事しか返せなかった。

「だって、お前俺の残り湯に入るの嫌だろ。で、俺に後で入られるのも嫌だろ。だったらこれが1番いい。」

「いや、そうじゃなくてもっとさ、その、さ、

エッチなさ、」

小声すぎて何を言っているのか全く聞き取れなかったのであろうキリアは

「これでいいんだよ。後は仲良くしてくれたらそれでいい。おれ人間の友達ろくにいねぇから」

私は過去にキリアになにがあったのかは知らないけどきっと酷い目に遭ってきたのだろうと、この時のキリアの眼を見ればわかった。

「あと、お前俺になんか聞きたいことあるだろ。なんでも答えてやるから言えよ。同部屋のよしみだ。」

心の中を読まれたような気がしたがそんなことはどうでもよかった。ここで全部聞こうとそう私は決意した。

「あなたは、どうしてそこまで強いの。それに神聖力って何?あと、あの攻撃が届かないのはどういうこと。それに乱魔って、」

「わかったわかった。一つずつ答えるから。」

言わなきゃよかったみたいな顔をしたキリアが私にゆっくりと説明を始める。

「まず、俺が強い理由だが、まぁ色々あった。あんまり詮索しないでほしい。それと神聖力ってのは善の心から生まれるものだ。悪の心からは魔力が生ませる。だから、基本的に人間は神聖力を作れない。心が汚い人間ばかりだから。たまにできるやつもいるが。後は乱魔か、あれは神聖力で相手の術式に侵入して直接乱してるんだ。神聖力は魔力と反発する。だからああいう結果が生まれるんだ。これは白繭も一緒だな。」

ここまで話し終えると、私は一つの疑問を覚えた。

「でも、あんたは神聖力ってのを使ってたじゃない。」

「あぁ、確かに使ってるよ。俺のは純の神聖力じゃないけど。」

「どういうこと。」

意味がわからないと言ったように聞き返す。

「魔力から神聖力を生み出すことが人間は可能なんだ。一応な、やり方は魔力と魔力を掛け合わせる。ただ、これだけだ。要するに負の力の負の力を掛け合わせると、混の神聖力が使えるようになるんだよ。純ほどなんもできないけど」

私はその答えを聞いて、自分の眼が輝いているのを自覚する。

「そうなんだ。じゃあわたしにも!」

「無理だよ。」

しかし、その希望をおるかのようにキリアははっきりと言った。

「まずこの魔眼がないとこんな芸当はできない。1階級の人間でもできなかったから間違いない。」

キリアは眼を指差しながらそう説明してくれた。

多分私はこの時悔しそうな顔をしていたと思う。

「まぁ、何はともあれこれからよろしくな!ルームメイト。」

表情が柔らかくなったキリアが私に手を差し伸べる。

「ええ、よろしく。」

もう警戒する必要もないだろうと思ったのでキリアの手を取って立とうとすると、私は前に向かって勢いよく転けた。そして、言い訳のように下からキリアを見上げて

「足が痺れて動かない。」

ずっと正座していたので仕方ないといえば仕方ないがキリアはこう思ってしまったのであろう。それが口から出てしまった。

「え?もしかして、お前、ドジなのか?」

自分のコンプレックスを突かれた。

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