第35話 兄妹の会話

これは夢だとすぐにわかった。私はこんなに幼くないし、今扉を開けて入ってきたお兄様はもういない。

「リリア、また作ってきたよ。」

兄様は私にパンケーキを作って来てくれた。

「ありがとうございます。」

私は病弱だったので食事などまで制限されていた。だからお兄様が持って来てくれる。このパンケーキが何よりも楽しみだったのだ。


現世、リリア視点


「んっ、」

ゆっくりと瞼を開く。そこには見慣れた天井があった。

「起きましたか?リリアさん。」

そう言って駆け寄ってくる美少年はイロアス。

学年主席であり、私と同い年で、4人目の魔階級一級である。少しロン毛気味の金色の髪の毛で、青色の眼を持った少年だ。

「気分はどうですか。」

「ありがとう。イロアス。誰が私をここに連れてきてくれたの。」

「あぁ、それはキリアさんですよ。まぁ、この部屋で起きるのを待つと言ってだのですが、もう遅くなったので先に帰って行きました。起きたら部屋に来いよ。と言って」

キリアからの伝言を伝えてくれたイロアス。

「かっこよかったですよ。リリアさん。それ以上にキリアさんは強かったですが。」

私が落ち込んでいるのをわかっていて慰めてくれたイロアス。

「えぇ、そうね。キリアは、いや、お兄様はやっぱり強かった。」

自分の中であの人がお兄様と確信すると安心からなのか自然と泣き出してしまった。それを見たイロアスは慌てて、

「キリアさんに何かされて、どこか痛むんですか?!」

「ちがう、ちがうの、イロアス。ただ、ただ、嬉しいの私のお兄様が強くて、憧れだった人がまだ先にいてくれて。そのことが、ただ嬉しいだけなの。」

私は両手で顔を抑えて感情を露わにする。聞いて安堵したのかイロアスは

「そうですか。」

優しい笑みでそう言った。

「私ね。昔からお兄様が憧れだったの。強くて、優しくてそんなお兄様が好きだった。でも、お兄様が術式がないって聞いた時はショックだった。でも、死んだと思っていても生きていて、とても強くなってた。やっぱりお兄様はすごいんです。」

そう嬉しそうに話す私をイロアスは温かい目で見守ってくれた。

「ちょっと、お兄様の部屋に行ってくる。」

ベットから飛び起き駆け足で玄関まで行くリリア。

「行ってらっしゃい。」

見送り出すイロアス。

「行ってきます!」

そう言って扉がゆっくりと閉まる。部屋に一人残されたイロアスは、

「少し、妬けちゃうな。」

そうこぼすのであった。


「よしっ!」

ピンポーン

ガチャ

「おっ!リリアきたか、今ちょっと料理中だから部屋入って待っといてくれ。」

そう言い残して、中へと戻っていくキリア、

「お邪魔します、」

私は申し訳なさそうに中に入っていく

「本当にきたのね。」

少しリリアを睨みながらソファーに座っているアリスがそう言った。

「まぁ、そうカッカすんなよアリス。一応俺の妹なんだから。」

「別に怒ってなんか、」

キッチンを挟んでそんな会話をする二人。その二人を見て夫婦喧嘩と思ってしまうほど互いに心を許していた。そして、キリアがキッチンから出てきて

「ほれ、パンケーキ」

「こ、れは、」

「あぁ、お前が昔好きだったやつだ。」

(あぁ、私のことを、こんな些細なことを覚えてくれていたんだ。)

感慨に浸っていると

「ほら、食っていいぞ。」

兄様から早よ食えと促される。

「いただきます、」

出されたフォークとナイフで切って口へと運ぶ。

「うっ、うっ、」

「ちょ、大丈夫か、」

兄様とアリスが私を心配してくれた。

「大丈夫です、ただ、懐かしくって。」

私は泣きながらパンケーキを口へと運ぶ。噛み締めるたびに兄様との思い出が溢れてさらに涙が込み上げて来た。

そして、泣き止むと同時に食べ終わり

「ごちそうさまでした、」

「おう、お粗末様」

満面の笑顔でそう言う兄様。そして、皿を片付けようとすると、

「お兄様、少しお話いいですか?」

「構わないよ。」

皿を置き地面へと腰を下ろして、テーブル席で向かい合う。

「私は邪魔そうね。部屋に帰っとくわ。」

空気を読んでくれたアリスは自室へと戻る。そして、本題を切り出す。

「お兄様、家に一度戻りませんか。多分お母様も、父様も会いたがっています。」

そう告げるとお兄様は少し寂しそうな顔をして

「無理だよ。」

キッパリと言った

「理由を聞いてもいいですか、」

真剣に私の方を向いてお兄様は答える

「俺は、父さんに一度殺されかけてる。あの森の最深部へとぶっ飛ばされてな。よく、生きたと思うよ。自分でも」

「やっぱり、そうでしたか。」

なんとなくわかっていた答えが返ってきたことに少し失望しながらも

「わかりました。お兄様のことは家族には漏らしません。」

そう約束する。

「あぁ、頼む。」

そして、私は頬を赤らめながらも、

「そのかわりと言ってはなんですが、久しぶりに頭を撫でてくれませんか。」

「?あぁ、いいぜ。」

お兄様は手を伸ばして私の頭を優しく撫でてくれた。30秒ほど撫でてもらって、お兄様は手を離す。少し俯きながら私は

「ありがとうございます。後、一つついでに聞いておきます。アリスさんとは付き合ってるんですか?」

今さっきのを見てどうしても聞かずにはいられなかった。それを聞かれたキリアは冷静にいった

「いや、付き合ってないよ。」

「そうですか。付き合う時はわたしにも挨拶させて下さいね。」

「あぁ、そうする。」

私はゆっくりと立ち上がり

「じゃ私はこれで、」

「あぁ、気をつけてな。」

そう言って私は兄様の部屋を後にするのであったのだ。

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