第23話 復興の兆し
ローブストゥスが去って以降、フィリネ達は村の復旧をしていた。
トゥリュングスの身体は持って帰ってくれたものの、その取り巻き達や、荒らされた村の状況まで元通り──というわけにはいかない。時には燃やし、時には修復をしながら村を復興していく。
「いやはやしかし……こんなきれいな景色が見られる日はどれだけぶりか……」
そう言うのはこの村の長。白髪が目立ち足腰も多少弱っている様子ではあったが、今も復興を手伝っているおじいちゃんだ。
「そういえば──あなた方は何者だったのですかの? 良ければこの村に像を作らせて頂きたく……」
この言葉を聞いて、フィリネは一瞬返答に戸惑った。ここでフィリネ達が勇者を擁したパーティだと語るのは簡単だが……その肝心の勇者が、この場にいないのである。
「そうですね……一度仲間たちと相談してもよろしいですか? わたくしたちの像なんか作って、復興が遅くなってもいけませんし」
「どうぞ、ゆっくり決めてくだされ。わしらはここで作業の続きでもしておりますからの」
そう言って村長は作業へと戻っていく。
フィリネは一旦作業の手を止め、別の場所で活動している仲間の元へと向かった。
♢♢♢
「──ジューク、少しよろしいですか?」
「いいけど……どうしたんだい?」
「少しお話がありまして」
そう言うとジュークは一言断りを入れてから、こちらへとやってくる。
「それで……どうしたんだい? その話というのは」
「わたくしたちの正体を告げるべきかについてなのですけれども……」
そうしてフィリネは事のあらましを話す。この間、先ほどジュークと共に働いていた村人が時々聞き耳を立てていて、話をするのに苦労してしまった。
「──そういうことか……」
「はい。それでぜひ、ジュークの考えをお聞かせいただければと」
ジュークは戦闘でも頼りになるが、彼の本当に頼りになるところは、こういう時の思慮深さにあると言えるだろう。普段はフィリネ達の決断を見守ることも多いが、ここぞという時にはきちんと手を貸してくれるところも好印象だ。
「そうだね……。儂の考えからいくと、像は作ってもいいが、正体は明かすべきではないだろうね」
「なるほど。理由をお聞かせいただいても?」
そう言うとジュークは言葉を整理するように「うーん」とうなった後、言葉を続ける。
「仮に今この段階で素性を明かしたとして、勇者がいないことをどう説明するんだい? それに、うまく説明できたとしても、人々の不安の火種としては十分なものだと思うよ」
深刻な顔つきで言葉を発して、慌てたように「もちろんそうならない可能性もあるけどね」と付け加える。
「分かりました。──しかし、像の方は? 像を作り出すと、場合によっては村の復興が遅れてしまうと思うのですが……」
そんなフィリネの問いにも、ジュークは冷静に答える。
「フィリネの言う事ももっともだけど、魔王軍への抑止力の象徴にもなるし、いいと思うよ。ちょっと茶化して観光名所にでもしてくれれば御の字じゃあないかな」
その言い分は少々人任せじゃないだろうか。そう感じたフィリネが反論しようとするが、それより先にジュークが口を開いた。
「なにより──せっかく村の人たちが湛えようとしてくれているんだ。どうせなら気持ちよく受け取ったほうが良いんじゃないのかい?」
ニッコリと微笑みながら言うジュークにフィリネは目を丸くする。そして──
「──そうですね。助けた人の要求を突っぱねては、正義の味方らしくないですし」
と、同じく柔らかな微笑みで返すのだった。
♢♢♢
「村長さん。今、お話よろしいでしょうか?」
「おお、どうすするか決まりましたかの」
「はい! わたくしたちの像、ぜひともよろしくお願いします!」
「おお、そうですか。それはいい。この村も活気づくでしょう。──して、何か希望などありますかの?」
──希望。そう言われると一瞬迷ってしまうフィリネだが……少しして頭を振り、少しだけ欲張った自身の考えに苦笑いする。
「それなら──『ここにも勇者は存在した!』なんて入れていただけると、わたくしとしては嬉しいですね」
「そんな事でいいんですかの。ならばお安い御用、今からでも取り掛かりましょうぞ!」
そう言って村長はとても老翁とは思えない速度で走っていく。
その姿を眺めながらフィリネは、像がいつか、本当の勇者様にも見てもらえるといいなと、そう感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます