第5話 本戦ロワイヤル
「さぁさぁ今から始まるのは、熾烈な予選を潜り抜けた猛者たちによる文字通り死闘! 本当に死ぬのだけは勘弁だが、命が削れるような戦いを見せてくれることを期待するぜェ!」
響き渡る司会の声に、出場者観客問わず雄叫びをもって答える。そろそろフィリネも、この大音声に慣れてきた。
「よーし気合は十分だな! それじゃあ早速本戦一回戦のメンバー発表だ……と言っても、ほとんど勝ち抜け順みたいなものだけどな!」
──ということは。フィリネは己の運命を悟った。フィリネは初戦を勝ち抜けた身、それが勝ち抜け順にという事は、初戦選出以外ありえないだろう。
「ここからは四人でのバトルロワイヤルだ! メンバーは……予選二試合目から五試合目までの勝者たち! お前らが初戦だレッツゴウ!!」
「え?」
発表されたメンバーに、フィリネは間抜けな顔をしてしまう。まぁそれも仕方ないことだろう。フィリネは予選一試合目の勝者。勝ち抜け順ならば、本来フィリネはここで呼ばれるべきのはずだ。
「あの……わたくし、初戦に勝ち抜けたのですが……?」
「ん? あぁ、嬢ちゃんは思ったより強そうなんでな! 別の枠に入れたほうが楽しめるかと思ってそっちにしたぜ」
嬢ちゃんという呼び名が浸透してしまっていることも気にかかったが……それよりも自身が強いと認定されていることが気になった。相手のラゲニダは前回も出ていたらしいが、その時に上位だったりでもしたのだろうか。
新しく湧いた疑問を口にする前に、第一試合の出場者たちがバトルフィールドに降りて試合が開始される。消化不良になったフィリネは、近くの店から食事を取ってきて大人しく観戦することにした。
俯瞰して試合を見ると、筋骨隆々とした男たちが自身の力で殴り合う、そんな試合をするような出場者が大半だろうと見受けられる。──なるほどそれなら、ラゲニダにも勝つことは難しくないだろう。実際彼の上背とパワーからなる拳は、殴るだけで人を吹き飛ばせそうなくらいだ。
そんなことを考えていたら、第一試合の出場者が二人ほど減った。
「おっと、ここで二人が脱落! 男たちのパワーがぶつかるこの争い、キニスがこの戦いを終わらせるのかァ!?」
どうやら先ほど二人を脱落させた男はキニスというらしかった。
──ただ、本人には強者特有の雰囲気は見受けられない。体はがっちりしているが、それに伴う覇気がない。
強いて言うならば、敵が向かってきた。だから屠った。そう言いそうな表情をしていた。
残された一人が、やけになってかキニスに向かって突っ込んでいく。
「……」
無言のまま躱して、すれ違いざまの一撃。それだけで相手は沈んだ。
「終了~! 本戦一回戦勝者は、キニス!」
司会や観客からの声に特に反応を示すこともなく、キニスはバトルフィールドから出ていく。
「なんというか……底の知れない人ですね」
そう言うフィリネの耳に聞こえてくるのは、次の試合の選手発表だ。
「次は皆さんお待ちかねのあの選手! フィリネ嬢の登場だァ!!」
沸き立つ観客に手を振りながら、初戦と同じようにバトルフィールドに飛び降りるフィリネ。ちなみに食料は全て胃の中に入れ終わっている。一部始終を見ていた人間は、フィリネの健啖家ぶりに目を回していた。
「さて、そんなフィリネの相手となるのは──前回ベストエイトの実力者、リゲウォ! エキシビションでの音速勝利をまた見せられるか、トスファ! そして──年は取っても首まで取られぬ、老翁にして大剣豪! ジショウ!」
それらの名が呼ばれると、会場のボルテージは先ほどより数段上がる。どうやらなかなかの人気者がそろったグループらしい。そんなことを考えていると、三人がすぐにフィールド内に入ってくる。
視線を交わす。これだけであいさつは終わり。争う者同士が語るのは戦いの中だけで十分だ。
他の三人も同じような考えらしい。それぞれ思い思いの構えを取って開始の合図を待つ。
「それじゃあ始めるぞ! 本戦第二戦、開始ィィ!!」
ゴングが鳴る。──瞬間、ジショウと呼ばれた老翁が、抜身の刀を振るった。その先にいたのはトスファである。
「へ?」
そんな間抜けな声を出すころには、彼の両手は斬られていた。ボトッと音を立ててトスファの手が落ちる。
「な──なんで!?」
「簡単な事じゃ。先のおぬしの勝利は八百長によるものじゃろ? 他の誰が聞いたかは知らんが……我の耳には聞こえておったぞ」
糾弾するようなジショウの口調に、トスファは息を荒くしながら顔を恐怖に染めて「いやだ……死にたくない」とうわごとのように呟いている。
「死にたくなければ疾く降参せい。我も命まで取るつもりはない」
そうしてジショウはトスファへの興味が失せたらしい。すぐに構えてこちらへ向き直る。
「驚かせてすまんかったの。これでやっと、戦うにふさわしい刺客たちがそろったわ……」
顔こそ笑っているが、油断なく二人を見据えている。実際には数秒しか経っていないだろうが、その数秒が永遠と思えるほど長い。
──その静寂に耐えかねて動き出したのはリゲウォだった。
ラゲニダと似たような戦闘スタイルなのだろう。突っ込んでいって殴りかかろうとするが、ジショウに軽々と防がれ、鈍い音が鳴る。
「嬢ちゃんもかかってきてくれて構わんぞ?」
「……状況次第です。なんだかあなたは、カウンターがお得意そうなので」
「ハハッ。今の流れで見抜くとは冷静な事よのう」
そう感嘆しながら、リゲウォの攻撃をやすやすといなす。
とはいえ、フィリネは今の戦いの中のみで見抜いたわけではない。もともと剣の使い手であった勇者が基本だと言っていた動き──後の先を取る動きの事を思い出しただけだ。
「そうだ、勇者様──」
彼が今のフィリネを見たら、なんと言うだろうか。腰抜けだと言って笑うだろうか。それとも──
「勇者様の動きを思い出せば──きっと…………」
後の先を取る動きの、さらに後を取る。
その覚悟を決めたフィリネは、争っている二人の元へと走り出した。
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