第29話 ドラゴン、その存在
視線の先にある球状の物体がドラゴンだとわかった瞬間、フィリネは身震いした。
今はまだ眠っているが、起きてしまったときにどうなるのか──想像することもおこがましいくらいにわかりやすいことだ。
「リネ……フィリネ! どうするんだい? このままほかの二人を起こして奇襲をかけるかい?」
「──それでもいいですが……。あの二人がそこまで静かにしていられるとは思えませんね」
失礼な話ではあるが、フィリネの心中は「あの二人がそこまで冷静に動けるのか……?」という疑問で埋め尽くされていた。
「そうだね。正直な話、儂もそう思うよ」
どうやらジュークも同じ感想を抱いていたらしい。そこに安堵を覚えつつ、特にヘレンスはおとなしくできる人間じゃないだろうなということを再確認する。
「とりあえず今は刺激しないままにしておきましょう。二人が起きてきたら……その時に事情を説明するということで」
「そうだね。それが一番安全かもしれない。──そうだ、一応近くに何か起こっていないかだけ確認しておくよ」
「助かります。ただ……くれぐれもお気をつけて」
ジュークはその声に応えるように笑って振り返ると、砂を踏みしめる音を殺しながら近づいていく。
「大丈夫でしょうか……。あの場でドジでもやらかさなければいいですが」
不安をぼそぼそと口に出しながら、朝食の用意を進めていく。
ここで火を使ってドラゴンに気づかれても面倒なので、火を使わないご飯を作っていく。
しばらくすると、近くから砂を踏みしめる音が聞こえてくる。
「……ふう。いつこちらに気づかれるか、ひやひやしたよ」
「よくぞ無事で帰ってきてくれました。──それで、何か収穫はあったのですか?」
「大層なものと言えるかは分からないけど……これが」
そう言って取り出したのは、何やらキラッと光る、硬さを感じさせる物質。
よく見るとそれは、目の前に鎮座するドラゴンの体と同じ色をしていた。
「それはもしかしてドラゴンの……」
「そう。おそらくではあるけど、ドラゴンの鱗だよ」
手に持ったそれをひらひらと振りながら、ジュークは呆れたように笑う。
「どんなものかと思って試しに殴ってみたけど、傷一つつかなかったよ」
「なんとそれは……」
ジュークの殴打は岩をも砕く拳だ。それで傷一つつかないとはなんという物理強度だろうか。
「すみませんが、わたくしも試してみてもいいですか? ジュークと違ってわたくしは魔法を掛け合わせた攻撃がメインなので、いい実験台になるかもしれません」
「いいよ。儂としても気になるからね」
そうして差し出された鱗は、異常なまでの圧力を放っている。見るものを喰らい尽くさんとするような、おぞましい圧力だ。
「ありがとうございます。炎を使って気づかれては面倒ですし、見ずにしておきましょう。それでは──」
目の前の地面に鱗を置き、しっかりと狙いを定める。
「水よ! 我が槍となりて──龍の鱗を貫け!」
そうするといつの間にか集った水が言われた通り長槍の形を成し、目の前の鱗に向けて一直線に放たれていく。
──が。
「こちらも傷一つつかない──ですか」
「なんとなく予想はしていたけれど、ここまで硬いとはね……」
周りに染み込んだ水が、自身の無力さを感じさせるように思えて少しうなだれる。
「何かあったのか……?」
「朝から何してんの……?」
無言の間を打ち消すかのように、二人が起きてくる。ヘレンスはまだ眠たげに目をこすっているが、アイシャは起きたとたんに、目の前の鱗に興味を示した。
「これって──!」
「ええ、お察しの通りドラゴンの鱗です。──ですがわたくしたちが試しに攻撃しても傷一つつかなくて……」
「そういうことならアタシがやるよ。──行くよぉ!
「──! アイシャ、それは……!」
途中で止めようとするが──もう遅い。気づいた時には、収束した焔の輪が爆散し、いまだ傷一つない鱗を残していた。
「アタシでも駄目かぁ……。ところで、この声は何?」
聞こえてくるのは咆哮のような音。
目の前には、目を覚ました
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