第30話 目覚めたドラゴン
「アイシャ! 何してくれてるんですか〜!!」
フィリネはそう叫んで、少しでもドラゴンから離れようと動いた。
仕方のないことだろう。今の戦力で倒せるかどうかわからないのに、なんの策も立てないまま戦闘に移るのは馬鹿のすることだ。
「とりあえずお説教は後です! 今はなんとか逃げ延びることだけ考えましょう!」
言って、ジュークの方を見ると、何やらヘレンスと話をしているのが見える。
「分かった! 今ちょうど分かれているように、フィリネとアイシャ、ヘレンスと儂で二手に分かれよう!」
「分かりました! 今朝の野宿の場所で、また落ち合いましょう!!」
そうしている間にも、ドラゴンはどんどん近づいてくる。翼で推進力を得ながら、低空飛行のまま迫ってきていた。
「──ジューク! こっちに呼び寄せるぞ!」
「好きにやれ! こっちで合わせる!」
ヘレンスの提案に、一秒たりとも迷うことなくジュークが応える。
その返答を聞いたヘレンスはニヤリと笑った。
「──じゃあ好きにやらせてもらうか……。一点集中! ファンネル・アロー!!」
複数の矢をつがえながら叫び、一度振り返ってドラゴンを視線の先に見据える。
放たれた複数の矢は、中心の矢に収束するように弧を描く。
「GAAAA!!」
眼前のドラゴンは雄叫びを上げるが、攻撃が効いた気配はない。
おそらく、鱗になにか当たっただけのように感じたことだろう。──しかしながら、敵意を向けられたことはわかったようだ。ドラゴンの進む方向は、明らかにヘレンスを狙ったものとなった。
「よっしゃあ!!」
「ありがとうございますヘレンス! また後で落ち合いましょう!」
「おう!」
その言葉を聞いてフィリネは、ヘレンス達が視界に入らない場所まで走り抜けるのだった。
◇◇◇
「ハァ、ハァ……ヘレンスとジュークは逃げ切れましたかね……?」
「さぁ? アタシにゃ分からないけど、今はさっきのとこに戻るしかないんじゃないかい?」
「そうですね……。場所は覚えていますので、行きましょうか」
アイシャがうなずくのを確認し、フィリネは先程来た道を逆方向へと戻った。
「……………………」
「アイシャ、黙られるとこちらも気が滅入ってしまいます……」
「あ、あぁ。ごめん。ちょっと……整理ついてなくて」
気持ちは痛いほど分かるが……今はフィリネたち自身も、危機を脱したとは言い切れない。
今は安全を確保することが最優先だ。
「──ねぇ、アイツら。大丈夫かな……?」
後ろをついてくるアイシャからの言葉に、意図せずフィリネの足が止まった。
フィリネもそのことを考えていない訳では無い。無いが──。
「……珍しいですね。アイシャがそこまで落ち込んだ気分になるなんて」
「そりゃなるでしょ。アタシのせいでこんな事態になったんだし」
立ったまま落ち込んでいるアイシャ。それに合わせてフィリネも、アイシャの横に座り込む。
「わたくしは大丈夫だと思いますよ。──なにせあの二人ですから、ケロッとした顔で帰ってきますよ」
「でも……鱗ですら全然傷つかなかったんだよ? そんなのに追われて生き残るなんて──」
その気持ちは分かる。伝説にも謳われるような強さを持つドラゴンに、二人が対抗できると思えないのは同じだ。ただ──。
「──ここで死ぬような仲間なら、今までの何処かで別れていますよ」
「……! そうだね。今は行こっか。──二人を待つためにも」
納得して、先に立って歩き出すアイシャ。その顔は先程より晴れやかだ。
「まったく……。わたくしがいなくて、道がわかるんですか〜?」
そう言うと、アイシャは後ろを振り返って、テヘッと笑うのだった。
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