第28話 西方にいるドラゴン
「徒歩での移動はやはり疲れますね……。次に長旅をするときは、馬車でも買っておいたほうが良いでしょうか……?」
日がカンカンと照るお昼すぎ、フィリネ達四人は依頼を受けたドラゴンが生息する地へと向かっていた。
「暑い……というか眩しい!太陽の方角に進むのは分かるけど、なんでこんなに眩しいんだよ!!」
「アンタねぇ……そんなもんここが砂漠地帯だからに決まってるだろ? みんな暑いんだから我慢しなよ」
そう、アイシャの言う通り、四人が歩いているのは砂漠地帯だ。昼は暑く、夜は寒い。過酷な環境がフィリネたちを襲っていた。
「そう言うアイシャだって、もう体力なくなりかけてんだろ?」
「ハッハ。アンタに心配されるとは、アタシもヤキが回ったねぇ」
バチバチと睨み合う二人。以前の戦いや、その後の復興での協力を通じて多少は仲が良くなったかと思ったが、どうやらそんなことはなかったらしい。
「二人とも、やり合っている暇はありませんよ。わたくしたちはなるべく早くドラゴンの居場所へ着かなくてはならないのですから」
フィリネがそう言って宥めるも、今の二人にあまり効果は感じられない。
意地を張っているのもあるだろうが、単純に疲れが溜まっているのだろうと思うフィリネだった。
◇◇◇
「日が落ちると……寒暖差が……」
日が沈んでからしばらく経ち、普通の人が出歩く時間はとうに過ぎている。
しかしアイシャはぽつぽつと呟きながら、フラフラとした足取りで砂漠を歩いていた。
フィリネたち3人はというと、すぐ近くでぐっすりと眠りこけている。
アイシャは四人で行ったゲーム──じゃんけんのようなもので敗北してしまい、近くにある水場から水を調達する役を請け負わされたのだった。
「はぁ……なんでアタシはあんなところで負けるかなぁ……」
正直、アイシャとしても早く休みたい。フカフカのベッドなんて贅沢は言わないから、柔らかい砂の上で横になりたい。
ただ、ここで自分が仕事を放り出すと、他の仲間が困るのは目に見えていたので諦めて作業を続ける。
「いくらアタシが炎魔法で灯りをつけれるからってさ〜。誰か来てくれても良かったんじゃないのかねぇ?」
心細いというのもあるが、近くに何もないので方向感覚がおかしくなってしまいそうなのだ。加えて今は夜の闇が辺りを覆っている。炎がなければ何も見えない状況で、一人で行って帰ってこいというのは些か難しくないだろうかと思った。
「まぁいいや。どうせあと少しでアタシも休めるし──」
近くで砂を踏みしめるような音を感じて、思わず後ろを振り返る。
ここで件のドラゴンにでも出くわしたら……なんて心配がアイシャの頭をよぎったが、目の前に現れた存在は明らかに人の形をしていた。
「悪い悪い。驚かせちまったな」
「アンタ……なんでここに?」
目の前に現れたヘレンスは、少し照れくさそうな顔をしながら隣で水を汲んだ。
「お前……昼間倒れかけてただろ。俺のせいで余計にエネルギー使わせちまったところもあるし、倒れてねぇか気になって」
「ハッハ。アンタに心配されるとは、アタシもヤキが回ったねぇ……!」
「お前──人がせっかく心配してるってのに……」
「あー悪かった悪かった。それじゃ、この水の入った桶を持っていってくれ。アタシが倒れないか心配なんだろう?」
桶を差し出しながらニヤニヤと笑うアイシャ。
ヘレンスはしばし葛藤していたが「……今回だけだからな!」と言って、その桶を持つのだった。
◇◇◇
朝。太陽が姿を見せ始めた頃に、フィリネは目を覚ました。
横ではアイシャとヘレンスがぐっすりと寝ているが、反対側にいるジュークだけは起きていた。しかし、こちらに気づいた様子はない。
仕方がないので、寝ぼけ眼をこすりながら、フィリネはジュークに声をかけた。
「……おはようございます、ジューク。どうしたんですか? 変な方向を──」
「静かに。できるだけ儂に話しかけないでくれるか」
「? 何を言って……」
ここでフィリネはようやく気がついた。
少し先に見える赤い球状のもの──昨夜は暗闇でよく見えなかった──それが、目的のドラゴンの身体であるということに。
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