第27話 受諾、その後に……

 国王からの依頼を受けて、フィリネたちは西方へと旅立つこととなった。しかし、もう夜は更け、あたりが明るくなるのにもしばらくかかるということで、フィリネたちは王城に泊めてもらえることとなった。


「外から見た時も思いましたけど、とんでもなく大きなお城ですね……!」


「この国──クシュウ王国のシンボルですからね。大きなシンボルを建てることで、この国の繁栄を表しているのですよ」


「そうか……ところで、これだけの大きさがあるなら、貧しい人たちや、家のない人

たちのために開放してあげてもいいんじゃないのか?」


「以前はそのようにしていたのですが──泊まりに来た人間の一部が、宝物庫の財宝を盗もうとする事件が起きましてな。それ以降、あまりお城を開放しないようにしているのですよ」


 なるほど、それなら納得だ。それにしても財宝が盗まれかけるとは……。生活困窮しているのはわかるが、魔王だけじゃなく人間にも、歩い存在は多いのかもしれない。


「到着しました。こちらのお部屋は自由にお使いいただいて結構です。明朝、朝食のご用意ができましたらまたお呼びいたします」


 そう言って、一礼をしたのちに執事──トリスが去っていく。


「……ハァ、疲れたぁ……」


「お疲れ様ですアイシャ。みんなも、今日はもう休みましょう」


「そうだな。俺としてもこれ以上は少し厳しい……フワァ……」


 あくびがこらえきれないヘレンスが、三人に先駆けてベッドで横になる。

 フィリネとしても、もう何も考えずにベッドに倒れたいところだ。


「あ、そうでした」


 ふと思い出して、フィリネは先の戦いで使用したオリハルコン・ダガーを取り出す。血の跡や炎で少し赤黒くなったそれを丁寧に布で擦っていく。


「『自分が使う道具の汚れは、自身の怪我以上に響くものだ』と勇者様もおっしゃっていましたからね……」


 懐かしい出来事を思い出し、少しフィリネの頬が緩む。昔の思い出に浸りながら武器磨きを続けていると、いつの間にかアイシャも横になっていた。

 ほほえましく思い真柄見守っていると、少し離れたところにいたジュークから声をかけられた。


「おや、フィリネ。まだ寝ないのかい?」


「もうすぐ寝ますよ。ですがその前に、道具の手入れだけはしておこうかと」


「真面目だね、フィリネは。──そうだ、少し聞いてみたいことがあるのだけど、いいかい?」


「ええ、何なりと」


「率直に言って、今の儂たちは今回の依頼を達成できると思うかい?」


 真面目な顔つきで問うジュークに、少し驚いて手を止める。ジュークのほうをじっと見つめるが、彼はこちらを見つめ返すのみだ。


「……なぜ、そのようなことを聞くのです?」


「儂としては微妙なラインだと思うから、かな。勢いだけで挑んで勝てればいいけど、そうじゃなかった場合は最悪誰かが死ぬかもしれない」


 そこで一息ついて、ジュークはまた言葉を続ける。


「──儂は、そんなことになるのは死んでも嫌だからね」


 しーんとした空気の中で「死ぬつもりは毛頭ないけれどもね」という、はにかみながらの声がよく響く。


「それが嫌なのはわたくしも同じですが……」


 フィリネはじっくりと考えを巡らせる。ドラゴンというものの強さと、今の自分たちの強さを照らし合わせて、いくつもの戦闘パターンを想像した。


「どうだい? 結果は出たかい?」


「今のわたくしの考えですと──少し、厳しいように思われます」


 冷静に、ただ考えた内容をありのままに伝える。だがしかし、ジュークにはショックを受けた様子は見られなかった。


「? 驚かないのですか? てっきり驚くか、少なくとももう少し反応があるものだと……」


「儂の予想でも厳しいと思っているとさっき言っただろう? それに、フィリネなら儂よりも冷静な判断を下してくれるはずだからね」


「いえ、そんなことは。ジュークだって──」


「まぁ、あくまで戦闘面に関してではあるけれどね」


 そう言ってジュークはいたずらっぽく笑う。彼のこのような様子はあまり見ないが、疲れでテンションがおかしくなっているのだろうか。


「それはそれとして、フィリネはどう思うんだい? 今のままだと確実に勝てる保証はないけれども」


「そうですね…………明日は明日の風が吹くと言いますし、ひとまず今日は寝ましょうか?」


 「…………!」


 驚いたように目を見開くジューク。彼はいるも頭の中で何かを考えているので、何も考えないというのが逆に新鮮なのだろう。


「そうか──うん。それもいいかもしれないね。たまには、何もしないのもいいかもしれない」


「でしょう? おやすみなさい。ジューク」


「ああ、お休み」


 それからしばらくして、ゆっくりと空は白み始めるのだった。

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