第36話 四人の策VSドラゴン

 未だ寝入っているドラゴンの前に、二人が並んだ。フィリネとジュークがドラゴンの前に位置し、ヘレンスとアイシャはそれぞれ分かれて後方から準備を整える。


 後衛二人の準備が終わったころを見計らって、ヘレンスが合図を出した。その合図に合わせてジュークは腕を振りかぶり、フィリネは自己強化の魔法をかける。起こしてはならないので、もちろん小声で、だ。


「――風よ、我が足に集いて、砂を踏みしめる力となれ……!」


 その詠唱を終えた瞬間。


 ――爆音が、轟いた。


「えらく景気のいい挨拶だな!」


「一度はこっぴどくやられた相手だからね。――それより……来る!」


 頭部にジュークの最大威力の攻撃をもらったドラゴンはしかし、まったく堪えた様子を見せず、四人の前に立ちはだかった。


 ――GAAAAA!!


 大地を震わす雄叫びに、思わず体が吹き飛ばされそうになる。


 フィリネは先ほどの魔法の風によって自分の体を地面に押し付けることで、何とか難を逃れる。


「まずは第一段階です。――次、行きますよ!」


「分かってる……よぉ!!」


 フィリネは掛け声とともに体を躍動させ、砂塵と変わらぬほどの速度で砂漠に舞う。一撃の威力は大したことはないが、圧倒的な手数を生み出している。


 ドラゴンの意識がそちらに向くと今度は、遠距離からアイシャの魔法による狙撃が行われる。


 焔の雨が尽きることなく振りそそぎ、その合間を糸のように縫って進むフィリネもまた攻撃を仕掛ける。すると――


 ――GRRRRR!!


 獰猛なうなり声と共にドラゴンが炎のブレスを吐き、アイシャの魔法を、より強い炎で消し飛ばしてしまう。


 ――だが。


次にドラゴンが目にしたのは、数日前にも見たであろう、自身の目に向かって放たれた矢であった。


「お前自身で視界を塞ぐとこうなるって、前にも体に教えたはずだぜ! 穿て! ファンネル・アロー!」


 スピードを落とさないまま猛然と大気を突き進む矢は、吸い込まれるようにドラゴンの目へと向かう。


 自身に迫りくる危険に拒否反応を示してか、はたまたヘレンスの言葉を受け取り学習したのか、間一髪というところで、ドラゴンは首を持ち上げて迫りくる矢を回避する。


 ここでドラゴンが人間としての知性を持っていたならば、もしかしたら気づくことができたのかもしれない。――対峙している敵が、誰一人として落胆の表情を見せていないことに。


そう。ドラゴンは学習したのではない。のだ。


「――ヘレンス! よくやったぞ!」


「――あなたの頑張りは、わたくしたちが無駄にはしません……!!」


 いつの間にか、と言って差し支えない速度で、ドラゴンがもたげた首にフィリネとジュークが突っ込む。


「炎よ! 我が刃に宿りて、彼の竜を焼き切るほむらとなれ!」


「最初のだけじゃまだ足りてないんで……この間の借りを返させてもらうとしよう!!」


 ――GRRRRR!!


 二人の攻撃は寸分たがわずドラゴンの首に命中し、強大な一撃を受けたドラゴンが思わず大きくのけぞる。


「――やりました!」


「効いたようだ!」


 とはいえ、相手も並の敵ではない。気を引きしめていかねば――。


 フィリネがそう思考し、気を入れなおした瞬間……


 フィリネの体はすでに、アイシャたち後衛組のもとへと吹き飛ばされていた。


「フィリネ!」


 ヘレンスが呼びかける声が聞こえるが、それすらも間に合っていなかった。


 あくまでよくよく考えれば、何のことはない。ただ攻撃を耐え、そのうえでドラゴンが、爪による一撃を見舞っただけである。――ただし、その速度、威力ともに尋常でないだけで。


「がふッ!!」


 地面に叩きつけられ、その衝撃に思わず声が出る。しかしながら、ここは砂漠。石畳に叩きつけられた時とは、衝撃の重さは比にならない。砂漠に生息していたことだけは、ドラゴンに感謝せねばなるまい。


よく見ると、ドラゴンを中心としたフィリネの間反対あたりに、今のフィリネと同じような体勢になっているジュークが見受けられる。どうやらジュークも吹き飛ばされてしまったようだ。


「一応、作戦の内容はあらかたやりましたが……やはりというべきでしょうか、この程度で倒れてくれる相手ではなさそうですね…………」


 正直なところ、ここからは全くと言っていいほどの無策である。自分たちの攻撃が通じないわけではないのが救いだが、それも弱点に高威力の攻撃を叩き込めねば、とても有効打とは言えないだろう。


 ――でも、それでもフィリネは立ち上がらねばならない。強敵に襲われ、仲間を失って逃げ帰るのは、前回の一度だけで十分だ。


 そばでは今も仲間が、フィリネに追撃を加えられないようにと、時に己が身を盾にしてまで戦っている。


 そんな大切な仲間を、そう何度も失っていいはずがないのだ。


「風の精霊よ、我の呼び声に応じ、どうか力をお与えください。――其の足に纏う風は大気を蹴り、其の腕をよろう風は、いかなる障害をも抉り貫く。……吹き荒ぶ風の力を、今一度我に与え給え!!」


 ――その刹那、砂漠に突風が

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