第55話 町での誘い

「どうです? あなたにとっても悪い話じゃないと思うのですが」


「……いったん、考えさせてもらってもいいですか?」


 フィリネはいきなり持ちかけられた話に、その場で決断を下すことはできなかった。


 今までならば迷うことなく乗っていた誘いかもしれないが、なぜだろうか、何やら嫌な予感というものが働いているような気がした。


「全然大丈夫ですよ。もし参加したいということであれば、二日後に前回と同じ場所でお待ちしております」


 その言葉を残して二人の会話は途切れる。フィリネはいまだにまとまらない思考を抱えながら、買い物を済ませる。


 宿に帰るまでの道でも、先ほどの誘いについてずっと考えていた。


 ――もちろん前回のような実績もあるし、苦戦しながらも帰ってきた現状を鑑みると渡りに船といえるだろうが……なぜだろうか、フィリネの中の危機感が「待て、何かを見落としているかもしれない」と囁いていた。


 とりあえず今のフィリネ一人では決められることではない。いったん宿屋に帰って仲間たちに相談するしかないだろう。


「世の中偶然はあるとは思っていましたけど、まさかこんな偶然の起こり方があるものなんですねぇ……」


 ただふらっと街に出ただけでこのようなことになるとはだれも予想できないだろう。そんなくだらないことを考えながら町を歩いていると、少しして宿屋に着く。


 もともと様々なお店を見るために遠回りしていただけなので、行きよりも早く着くことができた。


 そろそろ起きているかと期待しながら宿に入ると、食堂で三人の姿を見つけることができた。


「皆さんやっと起きられたんですね……」


「疲れがたまっていたかな……迷惑をかけてしまっていたら申し訳ない」


「アタシとしてはゆっくり寝られたから満足だけどねぇ……」


「わたくしは大して迷惑になっていませんから大丈夫ですよ。それより――」


 そこでいったん全員を見渡す。すると言葉を止めたフィリネを気にしてか、全員がこちらを見る。


「今外に出た時に、知り合いと出会いまして……」


 先ほど起こったことを、その場にいなかった三人にもわかるように順を追って説明していく。


「――――なるほど、それでフィリネはどうしたいんだい?」


「わたくしとしては参加するのも吝かではないと思うのですが、何やら嫌な予感も感じるのですよね……」


「というかよ」


 そこで声を上げたのはヘレンス。先ほどまで黙っていたヘレンスだったが、今になってようやく口を開いたのだった。


「全員で乗り込めば、特に怖いこともないんじゃないのか? そうすれば何か起こっても対処できる可能性は上がるし、賞品を取れる確率も上がるんじゃないのか?」


「そう言われるとそうかもしれませんね……皆さんはそれでいいのですか?」


 全員の様子を窺うように顔を見ると、全員異論はないというようにうなずいている。


「じゃあ……全員で行きましょうか! そのために今日はゆっくり寝て休みましょう!」


 そのフィリネの一言は、先ほどまで寝ていた三人から変更の申し出を受けたのだった。

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