第54話 二日目の休養
翌日。目を覚ましたフィリネは、もう高く昇った陽に目を細めた。
「もうこんな時間ですか……いくら休養日とはいえ、あまり寝すぎてもいけませんね……」
未だに残る眠気に抗いながら、ベッドの上を軽く片付けて部屋を出る。
「他の三人は――まだ寝ていますかね」
食堂に移動してあたりを見回すが、いる気配はない。もうすぐ昼食の時間だというのに……全員フィリネと同じく寝ぼけているようだ。
「いくら休みとはいえ、食事くらいはしておかないと倒れても知りませんよ……?」
誰もいない空間に向かってぼそりとつぶやくが、実際に起こしに行くような無粋な真似はしない。全員疲れているだろうし、ここで無理に起こして疲労を溜めさせることは本意ではない。
「――とはいえ、わたくし一人で何をしましょうか……」
部屋を出るまでは、全員集まれば何かやるかも……という考えだったが、一人となってはどうしようもない。特段やりたいことも考えていなかったため、ご飯を食べたら完全に手持ち無沙汰になる状態が出来上がってしまった。
「……ひとまず、ご飯を食べてから考えるとしましょうか」
出されたご飯――お米と、お肉の丸焼き、野菜サラダを食べて空腹を満たす。今日初めての食事にしては少し重いかとも思ったが、美味しかったので気にせず食べることができた。
そうこうしてご飯を食べ終わるが、いまだに仲間たちが下りてくる気配はない。
「時間はありますが、どうしましょうか……」
やることが思い浮かばず一人でぼーっとするが、それだけじゃ時間はつぶれない。
いよいよ本当に手持ち無沙汰になり、じっとしていられなくなったフィリネは一人、町へ繰り出すことにした。――いや、分かっている。分かっているのだ。いくらじっとしていられなくても体には疲労が溜まっているだとか、何もせずゆっくりすることも大事なことだとか、そんなことは分かっているのだ。
――分かっているうえで、暇なのだ。
それに、暇つぶしがてら一人で新たな武器を開拓するというのもありかもしれない。そんな淡い期待を胸に、一人宿を出る。
「とはいえ、何かあてがあるというわけでもないのですよね……」
町の中をぶらついているが、特に気になるお店などは見受けられない。数十分ほど街の中をぶらついてみるが、特に気になるようなお店は見受けられない。
大人しく食料でも買って帰るかと思って食料を打っているお店に寄る。
買い物客の待機列に並んで何を買うか思案していると、ふと誰かから声をかけられた。
「あれ、フィリネさんじゃないっすか? こんなところにいらっしゃったんですね?!」
声をかけてきたのはいかにも普通といった、特に特徴のないことが特徴といえるような男だった。
どこかで見たことあるような顔をしているが、誰だったかいまいち思い出せない。不可思議そうな顔をしているフィリネを見かねてか、相手はさらに口を開く。
「あぁ、これじゃ分かりませんよね。じゃあ、――お前ら喜べぇ! 前回トーナメント優勝者、ダークホースの紅一点、フィリネ嬢のお出ましだぁ!!」
誰もいない空間に向かっていきなり叫びだす男に、列に並んでいた人たちは奇異の視線を向ける。
――だが、フィリネにはそれよりも先に、懐かしさと驚きが込み上げてきた。
「もしかして……わたくしがこのダガーをいただいたトーナメントの司会者の……!? 話し方が違うので全く気づきませんでした……」
「覚えてくれてたんですね! 話し方に関してはよく言われるんですけど……とりあえずお久しぶりです。今日はなぜこんなところに?」
仲が良いかどうかはともかくとして懐かしい相手の登場に、思わずフィリネも饒舌になってしまう。強敵を打ち倒し、新しい武器がないかと街を探していたが何もないので食料でも買おうかと考えていたことを手短に話すと、男はニヤリと笑った。
「なるほどなるほど! いやぁ! これも神の思し召し、ってやつですかね! フィリネさん、あなた――――」
そこで昂ぶりを抑えるように、男が一度呼吸をする。フィリネもそれに合わせて、声が聞こえるように顔を前に近づける。
「――――あの大会に、もう一度参加してみる気はございませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます