第53話 久しぶりの休養

 王城の外に出た四人は、もう日が落ちた街を当てもなく歩いていた。


「とにかく疲れたので、二日ほど休みを取りたいですね……」


「そうだね。儂としてもさすがに今回のは堪えたよ……」


「アタシも、温泉とかでゆっくりしたいなぁ……」


 各々、自分の身体をいたわりながら今後の予定を考える。


 そんな中、他三人と比べて、明らかに一人だけ元気な奴がいた。そう、今フィリネたちの数歩前を楽しそうに歩いている男、ヘレンスである。


「なぁなぁ! この後はどうするんだ? もう夜も遅いし、どこかでご飯を食べるのか?」


「それもいいですが……宿で休んでからにしませんか……? ご飯を買って宿に持っていくという手もありますし」


「食べに行かないのか……。どこに行くのかちょっと楽しみにしてたんだけどな」


 露骨にしょんぼりするヘレンスに、さらに二人が口を開く。


「――おいしいご飯のお店はいっぱいあるけど……無理にお店で食べなくてもいいんじゃないかい?」


「行きたいんならヘレンス一人で行けばぁ? アタシは宿で食べることにするよぉ」


 二人からの追撃に、さすがのヘレンスも苦しそうに唸る。


「じゃ、じゃあせめて何を食べるかくらいは俺に選ばせてくれよ! 俺が買ってくるから!」


「そんなに食べたいものがあるのですか……? まぁ、構いませんけれども」


 そう言ってフィリネは自身の財布(これがパーティとしての財布となっている。誰かが浪費することのないように、普段はフィリネが預かっている)を手渡す。


 それを受け取るとすぐにヘレンスは走り出した。そのまま「宿で待っててくれ!」と言い残し、すぐに姿が見えなくなる。


「大丈夫でしょうか? ヘレンスだって疲れてはいるはずなのですが……」


「まぁ、いいんじゃない? ヘレンス自身がやりたいって言ってるんだしぃ。アタシたちは宿屋に行ってゆっくりしてればいいわけだしぃ」


 アイシャはすげなく言うと、宿屋の方へよたよたと歩いていく。


 フィリネは胸に一抹の不安を覚えながら、ジュークと共にアイシャの後をついていった。


◇◇◇


「ただいま~! やっと帰ってこれたぜ……」


 

 玄関の方から聞こえてきたのはヘレンスの声。分かれてから一時間ほどが経過していたので、三人ともおなかはペコペコだ。


「アタシだいぶおなかすいたんだけどぉ。何を買ってきたのぉ?」


「アイシャの分はこれだ。こっちがジュークの分で、これはフィリネの。――あ、これは俺のだから取るなよ?」


「…………!」


 目の前に並んだ品々に、フィリネはまず驚愕した。


 各々の前に並んだ料理、そのどれもが各自の好物のみで構成されていたのだ。


「まさか……これを買うためにわざわざ……?」


 そう言うと、ヘレンスは苦笑いしながらおどけてみせる。


「結構大変だったんだぜ? これだけ集めるの」


「こんなことをするために食事を気にしていたのか……なんか、すまなかったね。ひどいことを言って」


「……まぁ、ヘレンスにしては悪くないチョイスなんじゃない? 珍しく褒めてあげてもいいと思うよぉ?」


「そんなこと言うなら――――っておい! 没収しようとしたのに握りしめて抵抗するな!」


「これを取るならヘレンスの腕を燃やすよぉ……?」


 その一言でヘレンスはすぐに腕を離す。その光景に思わず笑ってしまうフィリネだったが、ヘレンスに露骨に嫌な顔をされた。


「それじゃあ、今日は皆さんお疲れ様ということで……食べましょうか!」


「おう!」


 その音頭を皮切りに、宴と言って差し支えない食事が始まったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る