第56話 いざ会場へ

 翌日。宿を離れ、全員で男に教えてもらった会場に向かうと、そこには前回よりかなり多い人間であふれていた。


「参加者って、こんなに多いのか……?」


「フィリネは前回こんな中を勝ち抜いてきたのぉ?」


「いえ……わたくしもここまで多くなかったと記憶していますが……」


 会場に入ることすら一苦労の中、参加者受付用の列らしきものを見つけて四人で並ぶ。


 談笑しながら受付までの時間を待っているが、なかなか列が前に進む気配がしない。


「かなり並んでいますねぇ……」


「そりゃあこの人数だからね。人の山……とでも形容した方が合っているかな」


 実際、ジュークのたとえは正確といって差し支えないだろう。参加列にも観客列にも前回の倍近くの人がいる、そのくせ会場自体は変わっていないのだから、どうなるかなどお察しだろう。


「ちゃんと広い場所用意しておいてほしいよねぇ……」


 そんな愚痴をこぼしながらしばらく列に並ぶ。数時間経ったところで、やっと受付を済ませることができた。


「さて、これからどうしましょうか」


「まさか人数が多すぎるからって開催が後日になるなんてね……」


 そう、今日はあまりの人数の多さに運営側も驚愕したのか、後日開催の運びとなったのである。急激に暇になってしまったフィリネたちは、どうしようもないのでいったんフィリネが出会った司会者と出会えないかあたりを探索することにした。


「――といっても、おそらく会場内に入らないといないですよね……」


「このごった返してる人の中に行くのぉ? アタシは嫌だけどぉ……」


「じゃあわたくし一人で行ってきましょう。皆さんは近くでゆっくりしていてくださって大丈夫ですよ」


「ゆっくりできるかは怪しいが……それでも四人でこの人ごみに入り込むよりかはマシだろうな。じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ」


 そうしてフィリネは三人と別れ、一人会場内に入り込む。


「会場内にいるとは思いますが……どこにいるかはまったく知らないのですよね……」


 どうしようかと一人呟きながら歩きまわっていると、会場内に一人たたずむ司会者の姿を見つける。


「こんにちは。お誘い通り、参加させていただくことになりました。わたくしたち全員で――ですが」


「全員で、ですか?! そりゃなんとまぁ……前回みたいな大番狂わせを期待していますよ」


 心底楽しそうに笑う司会者に、フィリネも不敵にほほ笑む。


「ええ、期待しておいてください。一対一で戦うのであれば、準決勝からはわたくしたちの仲間内争いを見物することになると思いますので」


 そう言って退場しようとすると、さらに司会者が言葉を開く。


「あ、自分も今日は帰るので一緒に行きませんか?」


 なんだか締まらないなと思いつつも、許可を出して一緒に会場の外へと向かう。もちろんその間は、傲慢ともとれる発言はしていないが。


 そして外への扉が近くなってきたところで、外から何やら大きな音が聞こえる。


「……? 今の音はなんでしょうか……?」


「さぁ? 何があったのか想像もつかないような爆音でしたけど……」


 不審に思いながら、おそるおそるドアを開ける。


 先ほどまで人でごった返していたはずの外は、今や数えられるくらいの人間しかいなかった。ヘレンス、アイシャ、ジュークの見知った顔に加えて、何やら黒いコートのようなものを纏った男性が一人と、それを見物するかのように遠巻きに眺めている人が数人いる。


 黒コートの男は、こちらの姿を認めると、一言だけ呟いた。


「――フィリネというのは……お前か??」

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