第47話 精霊の笑み

「そんな……! そんなこと……!」


 フィリネはうなされたように呟く。皆で大きな苦難を一つ乗り越え、これからの旅にはずみがついたと思った矢先のことである。取り乱すのも無理はなかった。


 信じたくなくても、先程までの精霊の行いによって、疑う余地がないことが証明されてしまっている。フィリネはただ途方に暮れるしかなかった。


「──それを! それを回避する方法は……ないのですか?」


「ん……まぁ、ないことはない。ただ…………ある、と明言することもできないな」


 精霊の態度は煮えきらない。先程から口角を上げているのもまた、フィリネのパニックに拍車をかける。


「なんなのですか!? 元はと言えばあなたが呼び寄せたのでしょう?! それはわたくしに解決法を伝えるためではないのですか!?」


「おーおー、怒ってるねぇ。ま、それも当然といえば当然か」


「なにを腑抜けたことをッ……! あなたが撒いた種でしょう?!」


「まぁまぁ、一応解決方法はあるから、怒るなよ」


 またもや人を小馬鹿にしたような笑みで言う精霊に、フィリネは思わず掴みかかろうとひて、一歩足が前に出る。


 数秒後にはその行為も無駄だと気づき、足を元に戻したのだが。


「……それで、なんなんです? その方法って」


「簡単だ。君が俺の力を使っても大丈夫なようになればいい。力を身体に慣らすんだ」


 それを聞いたフィリネは、天啓を得たとばかりにまくしたてる。


「そういうことですね分かりましたやりましょう今すぐに!!」


 そのまま突っ走ろうとするが──。


「──グエッ」


「汚い声出すなよ。嫌な気分になる」


「──ッ、なんで止めるのですか! わたくしが力を扱えるようになればいい話でしょう?」


「それをやるにもリスクがあって、無理にやりすぎると死ぬんだよ。同じ力の使い過ぎって理由でな」


「そんな……」


 それなら一体どうすればいいのか。助けを求めようにも仲間はおらず、眼の前にいるのは精霊のみ。


 うなだれるフィリネに、精霊はなおも口角を上げながら呟く。


「そのために俺が呼んだんだろ……。ホント、人の話を汲み取らねぇな」


「──! それでは……」


「あぁ、助けてやるよ。なんだかんだ、俺が力を貸してもいいと思えたのは久しぶりだからな」


「ではすぐに! お願い致します!!」


「俺、さっきから喋り詰めなんだが……休憩してもいいか……?」


「ダメに決まってるじゃないですか! ほら、早く教えてくださいやり方を!」


 フィリネがせがむと、精霊はめんどくさそうに頭を掻いた後、口を開く。


「一つ質問だが……今、疲れているか?」


「え? えぇ、まぁ。それなりには……というか半分くらい死にかけてた状態から、よくこんなにすぐに回復できたなという感じですけども」


 フィリネは改めて自身の体を見やる。


 ドラゴンとの戦いで付いた傷の中でも細かなものはすでに癒え、大きな傷も痛々しさがないくらいには回復している。改めて見ても驚異的だ。


「あぁ、それは俺のおかげだよ。これから文字通り死ぬほどキツイことするのに、ボロボロの身体じゃ耐えられるわけもないだろ……?」


「え……?」


 改めて、精霊はニタリと笑う。先程までと同じようで違う────どこか狂気じみた笑顔を見せた。


「────俺の力に慣れるため、君には今からもらう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る