第24話 新たな報せ


「ありがとうございました。おかげで村の修復も、なかなか進みましたぞい」


 像の一件から数時間が経ち村は見違えるほどきれいになった。

 先ほどまで魔王軍兵士の死骸や村で亡くなった人たちの遺体などであふれていた村は、今は活気を取り戻し、豊かな緑をのぞかせている。亡くなった人たちのために墓地も作られ、簡易的な献花台なども作られていた。


「いえいえ、わたくしたちは少しお手伝いしただけにすぎませんよ。本当にすごいのはこの村の皆さんです。今までつらかったでしょうに、これだけ働いて……」


 フィリネの視線の先にいるのは、疲れた表情をしながらもなお働き続ける村人たち。この光景を見ながらも「自分たちのおかげだ」などというようなことはフィリネは絶対にしたくなかった。


「そうですよ。儂らだけじゃなく、あの方たちもねぎらってあげてください」


 そう言うジュークはフィリネと一緒に村の人たちとの別れの挨拶をしている。

 今この場にいないヘレンスとアイシャはというと──村の子供たちの遊び相手をしていた。

 普段は子どもっぽいところのある二人だが、こういう時では子どもと一緒に遊べる、子どもたちのよき理解者だ。

 話が弾むジュークと村長は、何やら笑顔で語り合っている様子だ。長くなりそうな予感を察知して、フィリネは二人を呼びに行くことにした。


「アイシャ、ヘレンス。遊ぶのもよろしいですが、もうすぐ出発しますよ?」


「くッ……もうちょっとだけ待っててくれ。正義の味方の俺が、鬼ごっことはいえ相手役のまま終わるなんて許されねぇ……!」


「馬鹿だよねェ、こいつ。何回も鬼になって、ようやくこいつの番が終わったかと思ったらまた鬼になってる。負ける気はないけどホント面白いわァ」


「お兄ちゃんよわーい」


「お姉ちゃんは強いのに、なんでお兄ちゃんは弱いの~?」


 子どもたちからもからかわれているあたり、アイシャの言っていることは本当なのだろう。

 ほほえましい気持ちで見守っていると、ヘレンスは少し泣きそうな顔をしたのち叫び始める。


「お兄ちゃんにだって、苦手なことはあるんだよ! お前ら絶対捕まえてやるからな……!」


 そう叫ぶと、近くにいた子どもに向かって脇目も振らず走っていく。それとほぼ同時に、あたりに「来るぞ!」「逃げろ~!」「そんなに逃げなくてもお兄ちゃんなんかにつかまらないでしょ……」などの声が聞こえてくる。

 フィリネはため息をつきながら、その騒ぎが終わるまで見届けるのだった。


       ♢♢♢


「いや~、疲れたな!」 


「──疲れたのあんただけだよ」


「終わるまで待ってあげようなんて思うんじゃありませんでしたね……」


 三者三様の言葉を漏らしながら、フィリネたちはジュークのもとへと向かっていた。

 結局あれからかかった時間はおおよそ一時間。逆に言うと、一時間もの間、ヘレンスは誰も捕まえることができていなかった。


「ヘレンスはなんであそこまで捕まえるのが下手なのですか……。弓を放つときに敵の動きの予測くらいはするでしょう? ──あれと全く同じですよ」


「俺にもわからん! ただいい運動にはなったぞ! 子どもたちとも楽しめたし、結果としてよしじゃないか?」


「それはそうですけれど……一時間も待っていたジュークには謝っておいてくださいよ?」


 呆れたようなフィリネの言葉にも、ヘレンスは聞く耳を持たない。ただ「わかったわかった」と言って、ジュークのもとへと歩くだけだ。


「まったくもう……」


 戦闘が終わったばかりだというのに……と続けようとして、戦いが終わって以降、ヘレンスがほぼ笑顔を絶やさなかったことに気づく。これも彼なりの、みんなを活気づける方法なのだろうか。


「お、あそこに見えるのはジュークじゃないかい?」


 アイシャが言って初めて億に人がいることに気づく。もう少し近づくと、手に何やら封筒のようなものを持っていることが見て取れた。


「遅かったじゃないか。何かしていたのかい?」


「ヘレンスが少々……詳細は後にしましょう。──その手に持っているものは?」


「そうだ、ちょうどそのことを話そうと思っていたんだよ」


 そういうとジュークは、封筒の中の手紙を手にとって、仲間内にのみ見えるように広げる。

 そこにはこう記されていた。


『勇者の仲間の御一行へ

国王様が、貴殿らの村での活躍を耳に入れ、ぜひもてなしたいとおっしゃられている。近く王城まで来られたし』


「──ということなんだが……どうする?」


「あまり気は進みませんが、行くしかないでしょうね……」


 フィリネは大きなため息を一つついた。

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