第33話 四人での夕食
「アイシャ、遅いですね……先程出ていってからしばらく経っていますが……」
夕食の支度を終えたフィリネが、少し心配そうに遠くに視線を向けた。
つい少し前まではアイシャと一緒に夕食の準備をしていたが、アイシャが他の二人を探しに行ってしまったため、一人で残されることとなったのだ。
視線を向けた先には誰もいない。ただ真っ暗な砂漠が広がっているだけである。どことなく昨日の夜を思わせる感覚に、フィリネは少し身震いした。
「もしかして──今日も目の前にドラゴンが……なんてことあるはず無いですよね」
一人で嫌な予感を笑い飛ばしながら、アイシャの進んだ方向を見つめる。
そろそろフィリネもお腹が空いてきた頃だ。
「あまり遅くなるようであれば先に食べてしまいましょうか……」
空腹に抗えず、自身の分の夕食を手に取り──すぐに顔を上げることとなった。
理由は単純、先程まで見ていた方向から、砂を踏みしめる足音が聞こえてきたからである。
フィリネは音を立てずにダガーを取り出す。そのまま身体の前に構えながら、人影がだれか判別しようとする。
「…………」
「……! ーい! おーい! アタシだよぉ!」
「──! アイシャですか! 失礼しま──!」
謝罪の言葉は途中で止まり、代わりにフィリネの足が一歩、二歩と前に進み出る。
アイシャのそばには、今朝ぶりと言って差し支えない二人──ジュークとヘレンスがいた。
「ジューク! ヘレンス! よくご無事で帰ってこられました!!」
「これが無事だと思うならすぐに目を治療したほうがいいと思うぜ……!」
「おそらく命に別条はないだろうが、数日は満足に動けないだろう。勝手に引き受けておきながら、迷惑をかけて済まないね」
「いえ……そんなことは。わたくしに力があれば、あの場でドラゴンを倒せたのかもしれないですし……」
そこで一旦、空気が重くなる。それぞれが次の言葉を探す中、口を開いたのはアイシャだった。
「反省もいいけど……今はご飯にしようよぉ。そこで作戦会議でもしたほうが、いくらか有意義じゃない?」
「……そうですね。あの場で一番やらかしたのは誰かと問われれば間違いなくアイシャでしょうが、今はそれは置いておいてご飯にしましょう」
「そうだな。俺らに出会ってしばらくは泣きじゃくって動けなくなったのもアイシャだったが……それは気にしないことにしようぜ!」
「二人ともアタシに対しての圧が強くない?!」
なんだか久しぶりに思える四人の笑い声が、静かな砂漠に響くのだった。
◇◇◇
少し後、四人は各々思い思いに体を休ませながら夕食をとっていた。
と、そこだけ聞くと微笑ましく思えるが、四人の顔は穏やかではない。先程までの再会を喜ぶ空気とは打って変わって、冷静な戦士の顔つきをしていた。
「それで……実際に戦ってみて、何か収穫はありましたか?」
「おう、あるぞ! めちゃくちゃ硬くて、めちゃくちゃ早くて……爪と炎の攻撃が痛かった!!」
「怪我人があまり大声を出すものじゃないと思うんだけどねぇ……ジュークからは何か無いのかい?」
「そうだな……正直、ヘレンスと似たようなことしか話せないな。伝説の話として謳われてきた片鱗が見えた──って感じだ」
二人とも身体の傷を見やりながら話すが、残念ながらあまり対策として使えそうな話ではない。
フィリネは落胆しかけるが、思い直して笑顔を作った。
「まぁ、仕方ありません。幸いまだ多少の猶予はあるでしょう。──今のうちに体を休めて……次の戦いに、備えましょう」
他の三人も納得したように頷くと、また笑い声をあげながら、再会を喜びあうのだった。
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