第1話 二度目の始まりの街

 始まりの街。冒険者がよく集う街や、場合によっては魔王軍の支配する地域から最も遠い場所ということもある。この国──クシュウ王国にも、例外という事はなく、始まりの街と称される場所があった。


 それが、今フィリネ達も訪れている『トスタ』という街だった。


「来たのはいいが……この街にあんまいい思い出はないぞ」


「あんまり思ってても口に出すもんじゃないよぉヘレンス。一応アタシたちは勇者が所属するパーティなんだ。いつ何を聞かれているか分からないだろう?」


 弓使いのヘレンスがこぼした愚痴を、魔術師であるアイシャが制止する。その傍らでは、このパーティのリーダー代行を務めているフィリネと、その補佐をしている拳闘士のジュークが話をしていた。


「……それで、儂らがもう一度この場所を訪れた理由を教えてもらってもいいかい?」


「ええ。とはいえ、そう大それた理由でもありませんよ。わたくし達がここに来たのは、この近くにある村を救うと同時に、この街で、封印されてしまった勇者様の情報を探るだけですから」


 そう、フィリネたちのパーティには、もともと勇者が存在していた。──しかし、初めてこの街を訪れた際に、突然出くわした魔王によって封印され、連れ帰られてしまったのだった。まったくの偶然で、不慮の事故ではあったが、それでも大事なリーダーを失ったことに変わりはない。


 それ以降この街には来ていなかった……が、以前四人で歩む覚悟を決めたことで、もう一度この街に立ち寄ることになったのだった。


「それはいいんだが……正直儂は今のままの戦力で進むのは不安があるな。いつまた強敵が襲ってくるとも限らない。」


 そのジュークの言葉の続きを探るように、ヘレンスとアイシャの二人もフィリネ達の元へ近づく。


「確かに、今のアタシたちじゃもっかい同じような敵に会ったらおしまいだねぇ」


「──そんなこと考えてたら、いつまで経っても進めないぜ? 恐れず先に進むことも大事だろ?」


 二人の意見が食い違い、また少し険悪な雰囲気が流れたところをフィリネが言葉で遮った。


「どちらの言う事も間違ってはいません。──ただ、わたくし達は一刻も早く勇者様を開放して、戦力の増強を図らなければなりません。今もなお、魔王軍の被害に苦しんでいる方はいるのですから」


 神妙な面持ちでつぶやくフィリネに返事をしたのは、補佐を務めるジュークだった。よく見ると彼は片手ずつでヘレンスとアイシャの頭を押さえて、いがみ合いが起こらないようにしていた。


「それで? 結局儂らはどう行動すればいいんだい?」


「──この街で先に、わたくし達の戦力の増強を終えてしまうのです。幸いここは始まりの街。まだまだ駆け出しのわたくし達の力の向上を狙うには最適です」


 そう言ったフィリネが、メンバーに次の指示を下そうとする。しかし、それ以前に口をはさむ者がいた。そう、ヘレンスだ。ジュークに押さえられていた頭を痛そうにさすりながら、怪訝そうな顔でこちらを向く。


「それはいいんだが……ここで俺らが強くなったら、敵のやつらに感づかれてもっと強い軍勢を送られちまうんじゃねぇのか? 手の内を見られる手段がないとも限らないわけだし」


「おや、そんなことを気にしているのですかヘレンス。そんなあなたにいいことを教えてあげましょう。

──相手が軍を再編してこちらに送り込むより早いスピードで、わたくし達が強くなればいいだけですよ」


 自信満々に、なんなら少し鼻を高くしてそう言うフィリネに、誰も「さすがにその考えは脳筋すぎないか?」とは言えないのであった。


「それではこれ以上時間を無駄にしないためにも、各々の装備探しに参りましょう。終わったらこの街の宿屋にて、合流いたしましょうね」


 ワクワクした顔をした少女と、少し呆れた顔の三人は、その一言で場を離れた。


       ♢


「威勢よく飛び出したはいいものの……この街が二度目なことを失念していました……」


 落胆しきった顔で通りを歩くフィリネに、周りの通行人たちが奇異のまなざしを向けながら遠ざかる。どうやら勇者が所属していたパーティの一人だとは気づかれていないようだ。


 しかしそれでもフィリネの気持ちは晴れない。その理由は単純なものだった。


「──やっぱり一度訪れたことのある街だと、見たことあるようなものしか売っていませんね……」


 通りにある店はあらかた探してみたのだが、どうにもこうにもいい武器が見つからない。フィリネの役割としては魔術戦士なので、魔法の力を流し込める剣や、敵の攻撃に耐えられる鎧が欲しいところなのだが、なかなか望んだクオリティのものは見つからなかった。


「こうなったら裏通りの店まで探してみるしか……」


 裏通りの店は、なかなか表では取り扱っていないものが並ぶことも多い。──しかし、それと引き換えに料金は比較にならないくらいの値段を要求されるのだ。


「どこかにうまい話でもない……ん?」


 風が強く吹いたかと思ったら、フィリネの顔に一枚のチラシが張り付いてきた。そのチラシはそこそこ時間が経っているのかぼろぼろになっており、文字の一部はかすれて読めなくなっている。

 目を凝らして読むと、いくつかの単語がかろうじて読める。


「バトルロワイヤル……? 開催日が今日で……優勝賞品は──高純度の魔力流通材を使った武器!?」


 通りの真ん中で大声を出してしまったことで、またもや周りからの注目を集めてしまう……が、今のフィリネにそんなことを気にしている余裕はなかった。


「こんなものがあるなら早く教えてほしいものです……会場はどこか分かりませんが、とにかく行ってみましょう」


 町人たちは三度視線をフィリネに集めた。その視線の先には、先ほどまでの落ち込みなど全く感じさせないようなスキップをするフィリネの姿があった。

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