第59話 大会の始まり

 大会当日、フィリネたちは事前に受付を済ませた証を見せながら、アルベルトの姿を探していた。


「前回の約束はヘレンスが勝手に決めてしまったものだということを説明しておきたかったのですが……」


 数十分ほど探しているのだが、アルベルトの姿は見つからない。そしてここで、出場者集合の合図が響く。


「そろそろ行かなければいけませんね……」


 諦めて会場に向かおう。会場内で見つけることも、もしかしたら可能かもしれない。


「――――お、おかえり。どうだったんだい?」


「かなりギリギリまで探してはみたのですが……見つけられませんでした」


「別にいいんじゃねぇか? 負けなければいいだけだろ?」


「一番負けそうなやつが何を言ってるんだろうねぇ……」


 思い思いに言葉を発しながら司会者からの案内を待つ。アイシャとヘレンスは相変わらずこぜり合っているが、ヘレンスは一人難しそうな顔をしていた。


「どうかしたのですか? 何やら考え込んでいるようですが」


「……いや、何でもない。多分儂の考えすぎだよ」


 特に何も言わないが、その顔は先ほどと同じく険しいままだ。フィリネが詳しく聞けないもどかしさを感じながらどう声をかけるか悩んでいると、アナウンスが聞こえてきた。


「やぁやぁ皆! 今回は参加者があまりにも多い! というわけで、観戦者諸君には入場前にルールや選手などの一覧が掲載されたパンフレットを配布しておいた! 前回までと特に変わりはないが、戦闘時のルールや選手について知りたい人はそっちを参照してくれ! 持っていない人は近くのスタッフに声をかけてくれればもらえるはずだぜ!」


 どうやら今回はサクサク行く方針らしい。そのまま出場者の組み合わせ発表に移る。参加者が多いからか、かなりのテンポで説明が進められる。


「第一試合! ヘレンス! アイシャ! ラゲニダ! コルエ!」


「――! 二人とも、どうやら初戦のようですが……」


 振り返って二人を見た瞬間、フィリネは驚愕した。二人――ヘレンスとアイシャが、今までの恨みを全部晴らさんとでも言わんばかりの顔で互いを見つめ合っていたからだ。


「初戦から当たるとは運がいいなぁ、アイシャ」


「アタシとしても、ヘレンスと早いうちから力比べできるのは嬉しいよぉ? 他の参加者に手こずったから~なんて言い訳をされなくて済むしねぇ」


 控室でバチバチの争いを繰り広げる二人。他の参加者たちも遠巻きから眺めている。


「はぁ……二人とも」


「なんだ?」


「なにぃ? 今ちょっと忙しいんだけどぉ」


「争うのは構いませんが……やりすぎるのはフィールドの上だけでお願いしますね??」


「「……当然!!」」


 そうして二人は、闘技場へと向かっていく。


「これは……周りが見えなくならないように祈るしかありませんね……」


 新しく増えた問題に、フィリネは頭を抱えるしかなかった。

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