第41話 知恵明かし
フィリネは目を瞬かせた。他でもない、とある光景を目の当たりにしてしまったからだ。
――焔の輪と、竜巻とによる熱風牢獄。それが一瞬にして出来上がってしまったのだ。
「なんですか、これは……!」
感嘆の言葉ととめどない疑問が、フィリネの頭の中を駆け巡る。
近くにいるジュークとヘレンスを見ると、口をあんぐりと開けたまま、二人して固まっていた。
「「なんだ……これは……」」
同時にそう漏らす。仲がいいことは結構だが、ここまでシンクロされるとおかしくなってしまうものだ。
「――あっちからじゃきちんと牢獄の役割を果たせているかわからなかったけれど、どうやら上手くいったようだねぇ」
「――アイシャ!? 戻ってきたのですか?」
「もちろん。まだまだ倒し切ったわけじゃないしぃ。でも、さっきよりはだいぶ楽に戦えるはずだよぉ?」
そう言ってアイシャはニヤリと笑う。そのまま戦闘に向かおうとするアイシャを引き止めたフィリネは、素朴な疑問を口にした。
「なんで……なんであんなことができるんです?! アイシャの指示通りにしただけで、あそこまで強力な攻撃が――」
「あー分かった分かった。ドラゴンのとこまで移動しながら説明するよぉ」
少し気怠そうに頭をかくアイシャ。だが、移動時には結局三人ともに話を聞かせてくれる。なんだかんだ面倒見がいいことをほほえましく思うと同時、フィリネは申し訳ない気持ちにもなった。
「それで、今の熱風牢獄なんだけど――」
「すげぇよな! どうやってやったんだ?!」
「儂としても興味深いよ。先ほどまで防戦一方だったドラゴンを、炎と風で閉じ込めてしまうなんて……いったいどうやってやったんだい?」
ワクワクと期待が入り混じった視線を向ける二人に、アイシャはため息をつく。
「そんな超魔術みたいなものじゃないよぉ……。原理としては、さっきフィリネに教えたことを応用しただけだよぉ。これだけ言えばもしかしたらフィリネあたりにはわかるかもしれないねぇ」
先ほど教えてもらったことというと――――。
「風は熱で上に行く……ってことですか?」
「そう。ということは後は……?」
先生に教えを乞う子どもさながら、アイシャが出す問題に、フィリネは頭をひねらせる。
風は熱で上に行く。そしてアイシャの『炎の下から風を起こせ』といった内容の指示。極めつけにはそれを持続させろという指示。ここからわかることは――。
「焔と風を永続的に出し続けることで、疑似的に終わりをなくした……ということですか?」
「文脈読み取るのが大変だけど正解だよぉ。さすがはフィリネ、あの場で教えたことをしっかりと理解してくれてアタシは嬉しいよぉ」
アイシャに褒められ、少し気恥ずかしいといった様子のフィリネ。だが、ジュークとヘレンスの二人には何がなんやらといった表情だ。
「えっと……?」
「つまり、どういうことだい?」
「二人もこれを機に、自然現象に目を向けるといいと思うよぉ? 風は熱によって上に行く。それを補助するように、フィリネには上に突き上げるような風を送り出してもらったよぉ。――そして、それが永続的に続くということは……?」
「「熱風牢獄の完成……!」」
どうやら二人も気づいたようだ。目を大きく見開き、新たな発見をした感動に打ち震えている。その姿は本当に子どものようだ。
「そういうこと。唯一の懸念点だった、『ドラゴンならあれくらい突破できてしまうんじゃないか問題』も、フィリネの上方に向かう風のおかげで、牢獄としての効力はさらに高められてる。持続させるためにめちゃくちゃ神経使うけど――持続させている間は、ドラゴンにだって抜けられやしないよぉ」
自信満々に、されど慢心はせず。今ほどアイシャが見方でよかったと思うことはないかもしれない。それほどまでに、その言葉は皆を勇気づけた。
「まぁ、もしかしたらフィリネが直前にドラゴンの鱗を削ってくれていたおかげで、あの牢獄を抜けるに足る耐久力がないだけかもしれないけどねぇ……?」
「どちらにせよアイシャがいたからこそできたことですよ――っと」
そこで、ドラゴンが囚われた熱風牢獄へとたどり着く。近づくだけで熱気を感じ、肺が焼けてしまいそうなほどだ。
「それじゃあ、最終仕上げと行きましょう」
「終わったら長い休暇が欲しいところだねぇ」
「俺も、たまにはゆっくりしてぇなぁ!」
「二人とも、まずは目の前のことに集中だよ」
思い思いに今後の予定を立てながら、各々の攻撃の準備を済ませる。
「ジュークの言う通りです。――――これで、終わりにしましょう!」
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