第49話 仲間のもとへ
「……リネ! ……フィリネ!」
「ん……? わたくしは……?」
誰かに呼ばれる声で、フィリネは目を覚ました。視界いっぱいに広がるのは、直前までドラゴンと戦っていた砂漠。眼球のみを動かして周囲を確認すると、フィリネを心配そうにのぞき込む三人の仲間の姿があった。
「フィリネ?! 目を覚ましたか?!」
「よかった……これで一安心だね」
二人は何やら安堵している。――が、フィリネの頭はいまだ回っておらず、なぜ二人がほっとしているのか分からなかった。
「あの……お二人とも、なぜそこまでわたくしのことを心配しているのですか……?」
「なぜも何も、やっとあのドラゴンを倒したのに、気づいたらフィリネが倒れてたんだよぉ? 心配しない方がおかしいってぇ」
アイシャが口をとがらせて言う。話し方こそ変わらないものの、なんだかいつもより怒っているように感じられた。
そんなアイシャをなだめようと起き上がろうとする。だが、それと同時にフィリネは、頭を鈍器で軽く叩かれたような痛みを覚えた。
「――それに、心配してたのはアタシもだしぃ」
フィリネの脳裏に浮かぶのは先ほどまでの精霊との記憶。それと同時に、東部の痛みが何によるものなのかを思い出す。
「すみませんアイシャ。先ほど何か言いましたか……? 頭痛で聞き取れなくて……」
「ハァ……。もう、フィリネが無事そうならそれでいいよぉ」
よく分からないうちに許しを得たものの何か腑に落ちないフィリネだった。
「なぁ、ところで……」
そう言葉を発したのはヘレンス。彼はまっすぐにこちらを見つめている。
「フィリネは何で倒れたんだ? ――いや、普通に疲れたからとかならいいんだが……」
ここでフィリネは躊躇した。
別に、言ってしまうことは簡単だ。だが、ここで精霊との話をした場合、フィリネに死が迫っていたことにも言及しなければならないだろう。
――だが、ここでそれを言ってしまっていいのだろうか? せっかく四人でドラゴンを倒し、全員の士気が上がっている状態なのに、フィリネの一言で盛り下げてはしまわないだろうか?
もちろんフィリネの死は少なくとも一旦は回避されたものだが……どうしても不安をぬぐえないのもまた事実であった。
そんな葛藤に頭を悩ませていると、ふと別の声がする。
――ジュークが、ヘレンスと同じまっすぐな目でこちらを見つめて、口を開いていた。
「今は……いいんじゃないかな?」
「どういうことだ?」
「別に言っても言わなくても、どっちでもいいんじゃないか?」
そのジュークの言葉を、フィリネはただ黙って聞くことしかできない。ただ不思議と、安心感は感じられた。
「フィリネが過労で倒れたというのならゆっくり休ませてあげなきゃいけないし、そこまでフィリネを働かせた儂らの責任でもある」
「……」
「仮に別の理由だった場合は、それは儂にも想像できないよ。――――ただ、フィリネが今すぐに話そうとしないなら、それでいいんじゃないかな」
フィリネも、アイシャも、ヘレンスも。全員が黙って、ジュークの話を聞いている。
一瞬の静寂の後、ジュークが言葉を続ける。
「それよりも……今はみんなで、ゆっくり休もう」
まだ誰も声を上げない。しばらくしてから、アイシャが声を上げる。
「まぁ、そうだねぇ。正直アタシもくたびれて、それどころじゃないしぃ」
それに続くように、ヘレンスも。
「そうだな。今はゆっくり、このひと時を楽しむか」
全員が何も聞かずに受け入れてくれる。その温かさに、フィリネは涙しそうになる。
「……そうですね! ひとまず、ご飯にでもしましょうか!」
そう言った少女の顔の涙は、一筋の風がさらっていったのだった。
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