第15話 平穏な日常

 朝。疲れた身体もリフレッシュし、フィリネは気持ちよく目覚めた。陽も既に照っており、もう街に繰り出している商人たちもいる。

 フィリネは手早く着替えると、他の仲間たちが起きているかどうか確認に向かった。


「アイシャ~。起きてますか?」


 ドアを開けて呼びかけるが応答はない。部屋の奥に向かうと、未だ寝息を立ててすやすやと眠っているアイシャの姿があった。


「まったく……今すぐに戦闘が始まったらどうするというのですか」


 そんなボヤキをこぼしながらアイシャのベッドの元へと向かう。ただ、戦闘の時のアイシャはとても頼りになることを身をもって知っているので、実際に心配しているかと問われると答えはノーだ。


「ほらアイシャ。いい加減に起き──」


「──もう起きてるよ。フィリネが入ってきてからぶつぶつ言ってたから起きちまったよ……。ま、アタシもちょっとおもしろそうだと思って泳がしてたけどね」


「もう、人が悪いですよアイシャ。着替えてから下に降りておいてください。みんなで朝ご飯を食べましょう」


「分かったよ。どうせ今から他の奴らも起こしに行くんだろ? フィリネもご苦労なことだねえ…………」


「好きでやっているので、そんなに苦でもありませんよ」


 寝間着のままのアイシャはその言葉に微笑むと、着替えるからと言ってフィリネを追い出した。同性なのに……と思わなくもなかったが、この方が時間の効率がいいのでこのまま動くことにした。


「お二人の部屋はもう一階分上でしたっけ……」


 階段を上り、先に着いたのはジュークの部屋だった。階段を上ったすぐ横にあったので、気づかなければそのまま通り過ぎてしまうところだった。

 一応ノックをすると、中から「はい」と反応がある。


「フィリネです。起きてるかと思って確認しに来たのですが……」


「あぁ、どうぞ」


 促されて中に入ると、そこには既に着替えも済ませたジュークがいた。


「もう着替えていたのですね」


「そんなに年ではないはずなのだけどね。早起きが習慣になってしまったかな」


「いいと思いますよ? どうせヘレンスはまだ起きていないでしょうし、それで人に迷惑をかけるよりはよっぽどいいかと」


「ハハハッ。しょうがない。ヘレンスにはその分戦闘で活躍してもらうとしようじゃないか」


「それもそうですね。──では、わたくしはヘレンスを起こしに行ってきますが……?」


「儂も同行しようかな。以前見たヘレンスの寝相はかなり面白かったのでね」


「そうなんですか! それは朝の楽しみが増えたかもしれません」


 今までのヘレンスはジュークが起こしていたので、フィリネが起こしに行くのは実は初めてだったりする。ヘレンスはジュークが起こしに来ると思っているはずなので、ジュークと寝起きドッキリの打ち合わせをする。


「ジュークが起こした瞬間にわたくしに代わりましょう。どんなリアクションをするか楽しみです」


「ハハッ、フィリネもなかなか悪いことを考えるものだねぇ」


「そんなことはありませんよ。それより、もうヘレンスの部屋の前まで来たので、なるべく静かに行きましょう」


 そう言ってひっそりとドアを開けると、ぐーぐーといびきをかいているヘレンスの姿が見える。


「……それじゃあジューク、お願いします」


「やれるだけやってみようか。──ヘレンス、もう朝だよ」


「んにゃ…………もう朝……?」


 そのヘレンスの返事を聞き届けて、ジュークの背後に控えていたフィリネに入れ替わる。


「おはようジューク…………毎度毎度起こしに来てくれてありが──って、フィリネ!? 何でここに?!」


 本音を言うとなんともしょうもないようなドッキリではあったが、リアクションがよかったことと、ヘレンスのベッドから半ば落ちかけていた寝相のおかげで、場が静まり返ることだけは避けられたのだった。


         ♢♢♢


それから数分後。三人はアイシャの待つ一階への道を歩んでいた。


「ホントにびっくりした……一瞬ジュークが女になったかと……」


「提案しておいてなんですけど、よくあのドッキリであそこまで驚くことが出来ましたよね」


「俺のある種の才能が芽吹いちまったか……」


「ハハッ、そんなところで才能を発揮するのではなく、戦闘で発揮してほしいものだね」


「それを言ってくれるなよジュークゥ!」


 和気あいあいと談笑しながら一階にたどり着くとアイシャは既に自分の朝食を用意して待っていた。


「やっと来たかい。やけに遅かったけど、何かあったのかい?」


 不思議そうに尋ねるアイシャに、フィリネは食事を選びながら事のあらましを説明する。


「なんだいそりゃぁ……。アタシも見たかったね」


「アイシャまで俺の痴態を見るつもりかよ!?」


少し不憫なヘレンスを笑いながら、四人は朝食をとるのだった。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る