第49話 取引

「ここで引いてくれないか」

とその幻影、エンドは言う。


「それは私ではなくハジメさんに

 言うべきなのでは?」と

緊張気味にジェニは返した。


全員が二人?ジェニと幻影を

取り巻いて聞いている。


「私は争いを好まない。

 しかし、各街で魔獣が暴れている」

ならばそれを止める。

とハジメは強い口調で言う。


「それはこちらで何とかします」

とエンド。


私に人間の理はよくわかりません。

そもそもハジメさんは何に対して

お怒りなのですか?ジェニエーベル君も。


まず魔獣を使い、強制的に

選挙を操作したことだ。とハジメ。


「あれはどこかの人間が

 勝手にした事ですよ」とエンド。


そんな事はない。平民派を中心に

死んでいるではないか。と、ハジメ。


「偶然ですよ。」と平然としてエンドは言う。

そもそも証拠がない。


広場で魔獣をばら撒こうとしたではないか!


「あれはどこかの人間が無作為殺人を

 したのでしょう。もしかしたら選挙を

 なくすために平民派がしたのでは?」

とエンドは言う。


そんなことはない!とハジメは激怒する。


「ではその者に聞きましょうか?」と

エンドは言うと、ジェニが


「すまん。俺が殺した」と言う。


「いいですか?ハジメ君。これは取引なのです。」

察してくださいよ。とエンド。


このままいけば争いがさらに広がり

この国は混乱してしまいますよ?


人間がやってしまった「悪い事」に対して

あなた方は暴力で対抗している。


そもそも魔獣と人間の統合。

あれは本人たちも納得の上にした事です。

その家族は今頃、遊んで暮らしていますよ?


あなた方が暴力で「決まった事」を覆そうと

しているのを、コニャックは

人間を使わないで抑えようとしている。

どちらが人間を守っているのでしょうかねぇ。


「先に暴力で訴えてきたのは

 ハジメさん、あなた方だ」とエンドは言い切ると


再度言います。これは取引です。

コニャックはもう二度と魔獣は使わない。

そして、貴族派を中心に国を真面に

再編をする。強引な税の取り立てはしない。


実際、問題は金なのです。

賭けましょう。税金を基に戻せば

この争いはなくなりますよ?というより

コニャックは多分、現状より安くする。


既に勅使が各街に向かっています。

コニャックの取り巻きの中でも

「貴族」というものに使命感を

持っている者達です。


もしも1週間で元通りになったら

「魔獣の事は飲んでください。」と。


「魔獣が人間の感情に引き寄せられ

 街に入り込み暴れた」とジェニは聞く。


「その通りです。そしてそれを、

 コニャックに依頼されたハジメ君が

 紫の国に協力を仰ぎ討伐した」


これで一件落着です。とエンド。


「そんなにうまく行くものかよ」と

チェスキーはテージョに聞く。

「わかるかそんなもん」とテージョ。


「なるだろうな。」とボルドー。

「なるな。」とソミュール。

二人の吸血族が納得する。


「その根拠は?」とジェニ。

「それは人間だからだよ。」

とアッサリ答える二人。

全員が唖然とする。


ハジメ君はコニャックの街に

行った事はありますか?と突然

エンドは聞く。


「あぁ、ある」とハジメは答えると


あそこはいい街だ。

納税の滞納もないし、それに

犯罪率も一番低い。

そして何より、階級はあるが

差別はない。

そのコニャックが何故こんなことを

と思ってはいた。


「魔が刺したんですよ」とエンド。


そしてジェニを見て言う。

「あなたの父親、アルザスと

 同じでね」とも言った。


アルザスもコニャックも

ただ単に守りたかっただけなんですよ。


アルザスは亜人たちを。

コニャックは人間達を。


コニャックは嘆いていた。

なぜ他の貴族は出来ないのだろう、と。

「貴族の責」を全うできないのだろうかと。


この国全体がもしもコニャックの

街の様になれば俺には何も

いう事は無いよ。

国の在り方はいろいろだ。


「コニャックは貴方との会談を

 望んでいます」とエンド。


皆さん同席で構わないですよ?

とも付け加えた。


「ハジメさんが決めてください」

とジェニは言うと。ハジメは頷く。


「一週間だな?」では一週間後に

首都に入る。そうエンドに答える。


エンドはではそこでいろいろと

決めましょう。と言うと


「あ、そう言えばもうすぐここに

 ドラゴンが来ますよ?」と

思い出したように言った。


全員絶句。


「あぁでも、ウォッカも、ジヴァニアも

 来ますし。問題ないでしょう。」


他の魔獣、他の国の魔獣は?と

リスボアは聞く。


「あぁそうか、じゃあその二人は

 そっちに向かって貰いましょうか。

 いやダメだな。

 ハジメさん達が向かってください」

それの方がいいでしょう。予定変更。


そう言い残すとエンドは消えて言った。


「とりあえず各街に向かう。

 バイクに乗れる者は一番遠くだ」

とジェニは言う。


ジェニとボルドー。そして

テージョとチェスキーがバイクに乗る。

ソミュールは幻獣に跨る。


他はハジメさんが決めてくれ!

と言い残し走り去る。



サボルチ近郊。


「母様!サボルチが見えた!」と美香。

「ぶっ潰してやる」とウォッカ。


そしてウォッカの背後に幻影が現れる。

美香はその気配に緊張するが、


「なんだ?お出かけかよ」とその

影に向かってウォッカは言う。


「すまんが、サボルチに

 ドラゴンが向かっている。

 どうにかしてくれ。頼んだぞ」と

それだけ言うと影は消えた。


「なに!?あれは何よ!」と

美香はウォッカに聞くと


「エンドだ」とウォッカは言うと

「ジヴァニア、予定変更だ。

 ドラゴンを片付けるぞ!」というと。


サボルチの門をケツアルカトルと

アドラメレクが吹き飛ばす。


「このまま突っ切るぞ」とウォッカは言う。

美香はぶっ飛ばした門を見ながら

返事をする。


反対側の北門では冒険者が

荷車ごと門にぶち当たる。


子供のドラゴンは檻に入れられたまま

転がっていく。

「さっさと逃げるぞ!」と冒険者は

一目散に逃げて言った。


















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