第33話 ジェニ、殴られる

「なんとかなったな、ごくろうさん」

ボルドーは呼びつけた吸血族の

仲間をねぎらう。


「久しぶりですね、争いと言うのは」

と苦笑いしながらその者達は言う。


「しかし・・・。」と周りを見る。

民衆は遠巻きでこちらを見る。

目が合った時だけチョコンと会釈する。


「気にするな。」とボルドーは言う。


「ありがとう!おじちゃん!」と

幼い少女が駆け寄ってきて言うが・・・。


「あぶない!」とその親らしき女性が

言ってしまう。

その母親はハッとした表情を浮かべる。


「助けていただいてありがとうございました」

と深くお辞儀をするが、少女の手を引き

そそくさと離れていく。


吸血族の女性が笑いながら少女に手を振る。

少女も手を振る。


とりあえずこの区域を囲むように配置しとけ。

そう言うとボルドーはサボルチ内乱の

首謀者の所へ向かった。


「とりあえずは退けた。が・・・、

 俺達が邪魔なら言ってくれ。俺達は

 うちの国主に命じられてここに居る。

 勝手に首を突っ込んでいる」

そういうとボルドーは言う。


「そ、そんな事はない!邪魔と思った事はない。

 助かっている!」と首謀者。


その言葉を聞いてボルドーは真顔になり言う。


俺達が居なかったら全滅だ。

内乱、蜂起といえばかっこいいが

それは力が伴ってのことだ。


おれは昔、紫の国でサンテミリオン様の

私兵だった。直属だ。兵も任されていた。


「お前たちはこれからどうするんだ?」

と聞くボルドー。


「も、もちろんこの街をこの手に

 取り返す!」と首謀者。


「どうやって?」と冷たい目をするボルドー。


「そ、それは」と首謀者が言うと、その横から

「死ぬまで戦ってやるさ!」と興奮して言う。

「お前たちの手を借りなくてもやってやるさ!」

ともいう。


その男を殴りつけるボルドー。

殴り続ける。


「や、やめて・・・くれ。わ、悪かった」

と男は言うが

「なんだ?死ぬまでやるんじゃなかったのかよ」

そう言っても殴るのを止めない。


「やめてくれ!」と首謀者は言う。

その声でボルドーは手を止める。


「そんなもんだ」と言うと


こういった事は慣れた俺達に任せればいい。

悪いようにはしない。もうじきハジメさんも

ここに来る。

それまでは全員が死なないようにするのが

いい。死んじまったら女も抱けないぞ?

と言うと殴り続けた男に治癒の魔法を掛ける。


「まだやるか?」と言うと


「俺だってわかってるよ・・・。

 でも、悔しいじゃないか・・・。」

と泣く。


「おい、首謀者。全権を俺に渡せ。

 戦うのは俺達がやる。お前たちは

 後方で動け。勝ってハジメさんを

 迎えるぞ」と拳を突き出す。


首謀者はその拳を・・・。

両手で握った。


「とはいったものの・・・。」と

苦笑いをしながら首謀者に言う。


この地域だけは多分相手は入ってこない。

俺達が囲んでいるからな。

でも、相手が本気じゃねえな。というか

時間稼ぎをしている感じだ。


俺達がハジメさん達を待っているように

相手も援軍を待っているんだろう。


「と、いう事で飯だ!飯でも

 食っとけ!」と

首謀者の肩をポンと叩き言った。


「お、お前も一緒に!・・・あ。」

と首謀者は言葉を止める。


ボルドーは笑いながら手を挙げ

部屋を出て行った。


数日がたつ。


最初は至る所で競り合いがあったが

日がたつほどに競り合いも少なくなる。

「良くも悪くもないな・・・。」

とボルドーは言う。


相手の増援が先か・・・。それとも

こっちの到着が先か、それで決まるな。


日がたつことで内乱を起こした者達の

意識が、戦う事の意識が低下していく。


「やっぱり、止めとけばよかったんじゃ」

「バカ言うな、貴族派の言いなりに

 なれって言うのか」

「しかし、死ぬかもしれないぞ・・。」


方々で力のない話があがる。


「あらま、もうおしまいかよ」と

ボルドーについている女性が言う。


「それの方がいいさ。ビビってくれた方が

 死なないさ。」と笑いながらボルドー。

兎に角この地域の防御を優先する。


「たのむぞ、ジェニ様よ。早く

 ハジメさんを連れて来てくれ・・・。」

と空を見上げながらボルドーはつぶやく。



しかしジェニ達はまだ道中の真ん中

あたりだった。


ハジメは解剖を終えるとため息をつく。

「ジェニ君を呼んでくれ」と言う。


「何かわかりましたか?」と馬車に入る

ジェニを見つめるハジメ。


「これは・・・。」とジェニ。


「へぇ、さすがだね。こんなものをみても

 驚かないんだね」とハジメ。


「いや、さすがにきついですよ。でも」

そうジェニは言うとハジメに言う。


これは人間の体の中身と同じですね。

まぁ人間と言うよりも動物か。


「そうだ。これは魔獣じゃない。

 人間に近い生き物だ。体の真ん中から

 外に向かうにつれだが、人間らしいものは

 なくなっている」とハジメ。


「そして残念ながら脳には無数の

 黒い球体のモノが付着している。

 多分だが、動物としての本能的な

 感情はあるがそれ以上は出来ない

 と思う。」そう続けて言うと


「これは人間と魔獣が複合されたものだ」


「人間に魔獣を統合させたのか!」

とジェニはハジメに聞く。


「わからんが、それと似た何かだ」と

ハジメは言うと唇をかみしめる。


「だれだ・・・。誰がこんなことをする!

 コニャックと言う奴か!」とジェニは

ハジメに食って掛かる。


「だろうな・・・。」と強いまなざしで

ジェニを見る。


「俺は・・・殺してしまった。矢を

 放ってしまった・・・。」とジェニは

涙を流す。


俺はまた何も知らないで、人間に

矢を放ってしまった。

刀で斬ってしまった・・・。

・・・殺してしまった。


それをの馬車の外から見ていた

テージョは上がり込みジェニを

抱きしめる。が、すぐに体を離し


ジェニを殴る。


「甘ったれるんじゃねえ!」と。


























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