第52話 都市 サボルチ

「悪事とはなんだ。」と

コニャックは言うと続ける。


他人を蹴落としてでも自分たちが

良ければいいと言う考えか?


じゃあ、なにか?

己を犠牲にして他者の為に

生きろと言うのか?


お前は・・・。

飢えている子が居るとしよう。

自分の子も飢えている。

一切れのパンがある。


自分の子供ではなく、その

他者の子に与えろと言うのか。

「非常に感動的だよ」

とコニャックは笑う。


それでもいいさ。

民衆はその行いで、その親の事を

聖人だと言うだろう。

称賛するだろう。しかしな、


それも時がたてば忘れられる。

しかしな、

自分の子を救わなかったことは

その親は一生後悔するんだ。


その話を聞いてジェニは目を見開く。

「・・・その通りだ」と。

ミネルヴァの日記にあった通りの

話を思い出していた。


「半分ずつすればいいではないか!」

とハジメは言うと

「どっちとも死ぬ」とジェニは言う。

全員がジェニを見る。


「わかってるじゃないか、

 ジェニエーベル君は。いい国主に

 なれるよ。」とコニャック。


「ハジメさん、この話し合いは

 不毛だ。ただの揚げ足取りになってしまう」

とジェニは言うと


お互いがお互いの瑕疵を見つけ

言い争うだけになる。


「そうですよね?マルチネ様」

とジェニは言うと

「そのとおりね」とマルチネ。


実を取りましょう。

まずは戦乱を起こさない事。

これに尽きるわ。

その為にコニャックは引いた。


貴方は争いを起こしたいの?

力で、武力で国を取りたいの?

とハジメに向かって言う。


「そんな事はない!ただ単純に

 みんなが幸せになればいいと思っている」

とハジメは言うと


幸せなんて人それぞれだ。

とコニャックは言うと

「そこの少年」とリスボアに

声をかける。


キミの幸せとはなんだ。と。


リスボアは考える。

色々と考えるが答えが出ない。


じゃあそこの綺麗な貴方。

と、ソミュールに向かって言う。

「君の幸せとはなんだ」と。


ソミュールも色々考えるが

これといった答えが出ない。

「じゃあ、ジェニエーベル君は?」

ジェニもハッキリとした答えが出なかった。


「じゃあ、ハジメ君は!?」と

強い口調でコニャックは言う。

「幸せとはなんだ!答えろ!」と。


全員が無言となる。

「実際俺もわからん」とコニャック。


「幸せかどうかは知らんが」と

前置きをして。


俺はこの国を「不平不満」が

でない国にしたい。

やり方なんて幾らでもあるだろう。

俺は階級社会を作る。


しかしな、それは下の者を

足蹴にする事とは違う。


守るために階級を作る。

上の者には使命を与える。

「下の者を守る」と。


それが貴族の基本だ。

「それが貴族なんだよ!」

領民を守る。それだけだ。


「悪事を働いてでも俺は

 領民を守ってきた。」と。


「自分達さえよければ、と言う

 考えではないのか?」とハジメ。


「自分達さえよければそれでいい」

と堂々と答えるコニャック。


「俺は今、この国の総統だ。

 この国さえよければそれでいい」

とも付け加えた。


「もし仮に」とマルチネを

一瞬見てコニャックは言う。


「青の国に。この国の為に

 攻める事しか選択が無かった場合

 俺は攻める。」と。


「俺はこの国の為に覚悟が出来ている」

そう言うと、俺とお前の違いは

そこだ、ハジメ。とコニャックは言う。


「手を打て。サボルチは御前にやる。

 お前が領主となれ。」そう言うと


そこで俺を監視すればいい。

黄の国にあって、黄の国でない

立場を用意する。


独立した主権を渡そう。

サボルチに行きたいと言う者があれば

行かせよう。


しかしな、サボルチに行った者が

後悔するほどの街を、国を俺は

作ってやる。


帰ってきたいと言っても俺は

受け入れない。


「それこそ、今さえよければいいと

 思っている奴らだ。そんな奴は

 この国にはいらない」と

キッパリと言う。


「またバカなことしないように

 私もいるしね」とマルチネ。


「そもそもなんでマルチネ様は

 コニャックの後ろ盾に?」と

ジェニは聞くと


「手のかかる事をしたいのよ」

と笑いながらマルチネは言うと


私はね、青の国で

出来なかったことがあるの。

それがこのバカなら出来そうだからよ。


「それは一体どんなことです?」

とジェニは聞くが

マルチネは微笑むばかりだった。


「わかった。手を打とう。」と

ハジメは言うと


サボルチの主権は何処までだ。

と聞くと、コニャックは言う。

「国としての全てだ」と。


「ほかの街が俺の所につきたいと

 言ったらどうする」とハジメ。


「それはない。」と言い切る

コニャック。

「わかった」と

ハジメはそれだけを言う。


ジェニエーベルは思う。

この人は、コニャックと言う人は

強い。信念がある。

それが良いとか悪いとかは置いて。


結局、そこに住む者が

不自由なく過ごせればいいのだ。

確かに俺は皆が、笑って暮らせる

国をと言っているが、

結局はそこなのかもしれない。


そしてそこから、枝が分かれ

「差別」とか「妬み」とかを

なくせる事が出来ればいいのだ。


そうか、国とは「木」なのかもしれない。

太い大きな幹があり、枝がある。

勿論、根がある。


「幹」とは民が存在し続ける事で

あるんだ。


俺はただ単に空を見て

雲を考えていただけかもしれない。


本当の母さんが自身の身に替えてでも

ルナティアの攻撃から城の者を守った事。

王のアルザスが自身の首を差し出し

幕引きをした事。


それは民が、「幹」さえあれば

紫の国は生きると考えたのだろう。


そうか、国の有り様なんて

どうでもいいのだ。

独裁だろうが何だろうが。


民を生かす。「守る」事が出来れば。

向うの世界でも色々な政治体型、国が

有った。無論反発しあう国もある。


思想の面で。それで争うのは

ただ単に、自身の押し付けだ。


それが引き金となって戦争となるんだ。


「あなたはそのやり方を俺の国や

 赤の国とかに押し付ける気がありますか」

とコニャックに問うジェニ。


「何故そんな事をする必要があるのだ」

とコイツおかしなことを言う、みたいな

顔をしながらコニャックは言う。


「国のありようはそれぞれだろう」と

当たり前のようにコニャックは言う。


今住んでいる国が気に入らなければ

好きな国に行けばいいではないか。

「俺は止めないぞ?」とも言い、

「しかし、後悔はさせてやる」と。


その後、様々な取り決めを行い

ハジメとコニャックは手を打った。


黄の国の中にあり、独自の主権を持つ

街が生まれた。


「都市 サボルチ」の誕生である。





















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