第44話 崩御

「おばあちゃん!買ってきたわ!」

と美香は息を切らしながら言うと


「スピード違反だねぇ。

 バイクで行ってきたのかい?」と

ベルは言うと


じゃあ剥いてあげようかねぇ。

と体を起こそうとするが・・・。

「なんだいなんだい、私の体は

 いう事聞かない様だ」と言うと


ウォッカ、剝いてくれ。


ウォッカはナイフで剥く。

「私も剥きたい!」と美香も

ウォッカと一緒にプフィルジー剥く。


ウォッカは細かく切ったプフィルジーを

ベルの口にもっていく。

「なるほどねぇ、只剥くだけじゃ

 世紀末兵器にはならないんだね」と

ベルは笑うと


ウォッカは不機嫌そうに言う。

「流石に、それはないでしょう」と。


「今度は私のも食べてよ!」と美香。


へったくそな剥き方だねぇ。

そんな事じゃ嫁の貰い手も無いよ。


美香も不機嫌そうに言う。

「いいの、私は。まだそんな事には

 興味ないわ。結婚しないかもしれないし」


それじゃあ、私達の血族はおしまいじゃないか。


「仕方ないわね、いい人が見つかったら

 紹介してあげる」と美香は笑う。


ベルは目を閉じたまま微笑みながら言う。


ジヴァニア、そんなに口いっぱいに入れて。

息が出来ないだろうに・・・。


・・・おいしいかい?ジヴァニア。

沢山お食べ。


ウォッカ・・・。素手で掴まないの。

ほらまた、服で手を拭く。


・・・おいしいかい?ウォッカ。

沢山お食べ。


もう口の周りがベトベトじゃないか・・・。

こっちにおいで、拭いてあげるよ、ウォッカ。


ウォッカと美香は目を閉じる。

閉じているはずの目から

ボロボロと涙がこぼれる。


ほら、ウォッカが泣いてるじゃないか。

アンタはもう母親なんだから

そんな仕事・・・やめちまえ。


偉いねぇ、あんたは自慢の娘だ。

でも親より先に死んだら

・・・自慢できないじゃないか。


・・・本当に自慢だよ。

自慢の娘だよぉ・・・。


そしてベルは言葉を発することは

なくなった。


ウォッカはベルを抱き起し

悔しそうに・・・。

涙を流しながら・・・。

・・・抱擁をする。


美香も反対側から抱擁する。


「ありがとう、おばあちゃん」

「今まで本当にありがとう」


二人はゆっくりとベッドに戻す。


部屋の扉が開き

ルナティアが入ってくる。


ベルの前にひざまずき

手を取り、自身の額に当てる。


偉大なる精霊使い、ベルジュラックよ。

その魂でウォッカ、ジヴァニアを

守り給え。そして永遠に

ご加護を与えたまえ。


(そんなことしたら死ねないじゃないか)


美香とウォッカはそう聞こえた気がした。

いや、そう聞こえたのだ。


一時して


青の国に鐘の音が響く。

鎮魂の鐘が鳴る。


「この国で国葬をしようか?」と

ルナティアは言う。


「いえ、紫の国でします。」と美香。


じゃあ青の国の馬車で送るわ。

それぐらいさせてよ、わたしも

お世話になったんだから。

とルナティアが言うと、

なんとウォッカは


「・・・頼む。」と言う。


今はそう言う気持ちにはならない

だろうけど。とルナティアは言うと


ウォッカから預かった神器を取り出し

刃をウォッカに突きつける。


ウォッカは堂々と立っている。


「ふん」と神器をクルッと回し

取っ手の部分をウォッカに向けて渡す。


ベルジュラックを送るのに

時間が少しかかるわ。

私が丁重に送って上がる。


その間に、かたずけてきて欲しいの。

アンタなんかに頼みたくはないけど

この際仕方ないわ。


貴方のケツアルカトルならすぐよ。

サボルチを解放して来てよ。


「なんだ、使役できると知ってたか」

とウォッカ。


当たり前よ。とルナティアは言うと


ジヴァニア、貴方にコレを上げる。

そう言うと魔方陣を描きナニカを

顕現させる。


アドラメレク。

貴方の自由に使っていいわよ。

貴方もサボルチに行って

さっさと終わらせてきて。


そして自分の国に戻り

ベルジュラックを弔いなさい。


そしてウォッカは言う。

ではそれが終わったら、どちらも

終わったらお前を城に、元の城に

私が送り届けてやる。


「そこで一生寝てろ」と言うと

ケツアルカトルを顕現させ背に乗る。


「八つ当たりしに行くぞ、ジヴァニア」

とウォッカは言うと美香も

「そうね、このやるせない気持ちを

 ありったけぶつけてやる」と言い

アドラメレクの背に乗る。


「可哀そうな人間と魔獣たちね。

 とばっちりもいいところ。」と

ルナティア。


そして二人は飛び立つ。

高度はほぼないが、速度が速い。

「ナニコレ!バイクより早いじゃない!」

と美香は言うと


「顔を上げるな。

 少し下を向くようにしろ。

 息が出来なくなるぞ」とウォッカ。


「ねえ!母様!魔剣で魔獣倒せるの?」

と聞く美香。


「問題ない!それで倒せないのは、

 と言うより人間と魔獣しか倒せない!」

とウォッカは言う。


「わかったわ!」と美香は言うと

顔を下げ前を見る。


それを見送るとルナティアはつぶやく。

「母と子かぁ・・・。」と。


今日はコルンでも誘って飲みに行くか。


そのコルンはベルジュラックの身の回りの

整理をしている。丁寧に丁寧に。


「偉大な方だ。この世界の魔法の

 ありようを変えようとした人だ」

とコルンは言うと


私もこうありたい。

人の為に、生きる者の為に

魔法を生活の一部として。


ただ相手を攻撃するだけではなく、

ただ相手を豊かにするような魔法。


跪き、首を垂れ祈る。


「これは皆の装備・・・。」

奥の机に沢山の装備が綺麗に畳んである。


その中に「コルン用」と書かれた

装備があった。


「こ、こんな私にも・・・。」と

その装備を手に取り涙を流すコルン。


すると一枚の手紙のようなものが

落ちる。

その封がされた手紙は「コルンへ」

と書かれていた。封を開け読む。


「お前のおかげで、お前のへたくそな

 魔法のおかげで帰ってこれたよ。

 ありがとう。」


それを読み涙を流す。

「こんなこと書かれちゃ、涙が

 止まらないじゃないか!」






















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