第25話 神の子 勇者とは

場所は青の国


「ちょっと、ジヴァニア?」と

ルナティアは美香に声をかける。


「ちょっと私と来てほしい所があるの。」

そう言うと、二人はとある部屋に入る。

宝物庫であった。


二人の目の前には

握りての部分が片手剣の倍ほど、

刃が美香の背にも届きそうな長さの剣。


「あなたはこれを何と思うの?」と

ルナティアは言う。

美香は

「これは両手剣ね。多分私には使えないわ。

 剣である以上。」と答える。


持ってごらんなさい。とルナティア。


「あれ、軽い。」と美香は言う。


その様子を見ながらルナティアは言う。

「これは剣でもあるけど魔剣。本物よ」


出所は教えない。

魔剣は人間を殺す事に特化したもの。

「もしも、貴方がこれの所有者であったら

 人間を殺しまくるのかしら」と。


「悪を斬る!」と堂々と言い切る美香。


貴方にとって悪とは?とルナティアは聞く。

「そうね・・・。」と少し考え美香は


あなたの前で言うのもなんだけど、

「悪」と言う概念は、その個人によって

違うわ。だから私の答えが、あなたの

答えと同じではないと思う。


人間ってさ、多分だけど自分しか

見えないのよ。

「がんばって」見ないと自分は見えない。

他者しか見えないから、そこに

妬みや、嫉妬があると思うの。

自分に無いものを持ってたり。


「こいつは悪い奴だ」と言うのは

自分が勝手に決めることで、

「本当の悪」なんて私にはわからない。


皆が「悪」というから悪なんだ。

とも思いたくない。

「人から何かを勝手に奪うもの」かな。

しいて言うならば。


もしも私が「悪」とはこれだ!って

思うこと自体が実は「悪」なんじゃないかな。


ルナティア、まぁ知ってると思うけど

向うの世界では個人の意思だけで

裁きはしない。


法律、みんなが考えたモノに照らして

それを判断する。

個人が「こいつは悪だ」と決めつけ、

裁くことはできない。


そう言うと美香はその魔剣を

元の位置に戻した。


「ジヴァニア、その通りかもしれない。」

そうルナティアは言うと


確かにその通りかもしれない。

でもね、明らかに「悪」という者が

いるのは確かなのよ?「どうみても」。


私は人間を守護している。守護と言ったって

何も守っていないけどね。


ルナティアの目が金色に輝いている。


でもね、人間の体を持てて

直接的に動けると色々解るのよ。


以前は間接的に「私が悪と思った者」

に対して動けたけど今じゃ無理。


何かをするたびに「ルナティア」という

個人が付きまとってしまう。


ルナティアはこの国の皇女。

その中の私。

もしも以前の、この体に封印されて

いない私ならば、黄の国の今回の事

なんて起きていないわ。


明らかに人間の道から外れている。

私が思うからそうなのよ?


「だから」


その魔剣を持って黄の国に行ってほしいの。

あなたが「こいつは悪だ」と

思った者をそれで斬ってほしいの。


それを聞き、美香は

「魔剣じゃなくても斬れるわ」と。


私には刀がある。斬れなくてもタクトがある。

精霊が見方をしてくれる。

何故ならば、私は精霊の味方だから。


人間と精霊、どっちを取るかの選択が

あったら「私は精霊を選ぶ。」


強い目でルナティアを見る美香。

そして考える。


そもそも魔剣と神器って何なんだろう。

基本的なことを私は知っていない。

わかっている事は

神器では人間は斬れないが

エンド側の者にはとても有効。


じゃあ魔剣は?対極にあるのならば

亜人などのエンドの眷属は斬れないはず。

逆に人間に対しては有効。


冷静になって考えれば

ルナティア側の人間が神器を持つのが妥当。

エンド側の魔族が魔剣を持つのが妥当。

何故逆なんだろう。


「あぁ、そうか」と美香はつぶやく。

魔族の中に規律を監視する者が

居るとすれば・・・


もしも力の強い妖精が意味もなく

人間を襲った場合

処罰と言う観点で神器があるので

斬る事が出来る。

自分たちの中で解決できる。


もしも、持つモノが魔剣ならば

妖精に対しては斬る事が出来ないので

何も処罰は出来ない。

自分たちの中で解決が出来ない。


その悪さをする妖精を退治するのが

人間になっちゃう。


人間と亜人や精霊、妖精が仲が良ければ

それでいいけど・・・。


エアストが言いたいのはこの逆なんだ。

人間側が悪い事をすれば人間側で・・・。

エンド側に迷惑を掛けずに対処したいんだ。


だけども、封印されている今は

それが出来ない。


エンド側はいいんだ、

母様が居る。そしてジェニも。

神器を持った母様とジェニが

無抵抗な人間を襲う同族を

自分たちで裁くことができる。


勿論その二人は神器が無くても

強いので裁くことはできるが。


でも序列が2位の立場の者が「神器」

を持つことで「裁く者」としての

意味合いが大きく違ってくる。


それは抑止力になるんだ。

私は意身を大きくはき違えていた。


「神器」と「魔剣」はそれぞれ

自分たちを守るのではなく

相反する者が持つことで

同族の中でしっかりと、相手側に

迷惑を掛けずに裁く事が出来る

「法律みたいなモノ」なんだ。


「なるほどね」と美香はエアストに言う。

そして・・・。


母様に神器を渡したのはエンド。

エンドに神器を渡したのはエアスト。


そしてその魔剣がここにあるのは

エンドがあなたに渡したから。


「そしたらなおさら私には無理だわ」

と美香は言うとエアストは


「何故?」と笑いながら聞く。


私は母様の、魔族の娘だからよ。


そんな者が人間を監視して、

秩序を守るなんて人間の感情は

最悪になるわよ。


「そういえばさ」と美香は話を折る。


こっちから見てエンドは魔王。

その下が魔族と言うならば

こっちから見てエアストは神。

その下って何て言うのよ。


「どっちから見てもエンドは魔王よ」

と少しイラっとしながらエアストは言う。


そうね、考えたこともなかったわ。

なにかいい呼び名はないの?

貴方が名前つけなさいよ、ジヴァニア。

「そうねぇ」と美香は思案すると


「神の子、勇者」


ってどう?かっこよくない?

そういうとエアストは何故か

満足そうにうなずく。

「それいいわね」と笑いも出る。


「魔族の娘が神の子なんてダメよ」

と美香は言うと


「いい子がいるわ」と真剣な顔に戻る。


その子は剣の使い手だし多分、その魔剣、

その両手剣を上手く扱える。

片手剣ですら両手で持ってるし。


「あぁ、あの子ね」とエアスト。

あの子は確かエンド討伐戦に参加した

魔法使いの孫よね?


「何でも知ってるのね・・・。本当に」

と美香は言う。


エアストと敵対する者の娘と

エンドを封印した者の孫。


もう明らかに後者の方が人間ウケするわ。

と美香は笑いながら言う。



























「あぁ、そうか」と美香はつぶやく。

魔剣と神器は言い換えれば法律なんだ。














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