第19話 選挙当日

「何故、ここだったんですか?」と

準備をしながらジェニは聞く。


ハジメは答える。

「俺があの国に居ると住民たちが

 巻きもまれる。それだけさ」と。


「亡命・・・ですか?」とジェニは言うと


違うな。計画的には俺が

死ぬ事になっている。とハジメ。


「住民たちは悲しみますよ?」と

ジェニは返すと


そうだろうなぁ、でもな。

そこで考えてほしいんだ。国じゃなく

自分たちの事を。

選択は沢山あるってことを。


俺は可能な限り身分証を発行した。

個人がそこに居る証だ。

他の国に移れるという自由を与えた。


アスティの所もいい所だし

ルナティアの所もいい所だ。

勿論、お前の所もだろうな。


「でも、生まれ育ったところを

 離れたくない人もいるんです」と

ジェニは言う。


いいじゃないですか。大局で負けても。

貴方個人は選挙に出てるんだから

そう言った人達の希望になってください。


貴方が議員で居る限り、住民は

救われるのではないでしょうか。

自分の声を拾ってくれる人がいる。

希望は叶わないけど聞いてくれる

人がいる、と。


これは一本取られたな。とハジメは言う。

「さすがにあっちで過ごした人間だ。

 論争ではかなわないな」と苦笑いのハジメ。


「なんか、ジェニ君はバーボンに似ているな」

とハジメは言うと

「本当ですか?いやだなぁ」と笑うジェニ。


武力と言う点ではバーボンは俺達の中では

中の上くらいだ。しかし

口が絡むとアレは化け物になる。

とハジメが言うと


「わかります」と苦笑いのジェニ。

え?あれで中の上なんですか?と

聞き返すジェニであった。


笑いながらハジメは答えた。


バーボンの世代の中ではだが、

武力として一番強いのは

アレの嫁さんのウォッカだ。

その次にアスティ。そして

ボルドー。その次に

サンテミリオン、マルチネ。

続いて俺。この順番かな。

まだいるぞ?お前の国に居た

メルト、そしてフミージャ。

アレは強かった。

その次くらいかな?バーボンは。


「ボルドー強いんだ!」となんか

感動したジェニ。


何だお前知らないのか?ボルドーは

サンテミリオン様の子飼いと

言われていたが、紫の国の裏の・・・

サンテミリオン直属部隊の

指揮官及び隊長だったんだぞ?


「衝撃」と言いながら本当に

衝撃を受けたジェニであった。


もしも・・・。もしもだ。

ボルドーがミネルヴァの所に

飛ばされていたらお前は行方不明に

なっていなかった。


聞く所によると

サンテミリオン様の魔法を

自身で阻害し、最後まで共に

居ようと耐えてたらしい。ボルドーは。


「いいか、お前は人材に恵まれている。

 そう言った者達がお前を国主とした。

 いい国を作れ」とハジメは言う。



ハジメはバイクの説明を聞き、なんと

ものの数分で乗りこなせるようになった。


黄の国へは

ジェニとマルチネ。そして

ハジメとテージョ。

ドウロは後から馬で来ることとなった。


「いいな!これ。スカッとする!」と

運転をしながらハジメは言う。


道中休憩もとらずに走り抜ける。

「そう言えばあの魔獣の事はわかったんですか?」

とジェニは聞くと

「ほぼ分かった。防御措置も考えた」とハジメ。

「その事も演説で言う!」とも続けた。


そして明け方には首都へ着いた。

「ボルドーも来ているんだったな、どこだ」

とハジメは言うと宿屋と言う事を聞き

そこへ全員が向かう。


ボルドーの寝ているだろう部屋に

ハジメは飛び込むと

「ボルドー!精霊を呼び出せ!

 火と土だ!出来る限り大量にだ!」

とハジメは言う。


しかしボルドーはいない。


「ボルドーなら探したい人間が居る

 と言って出て行ったわよ?夜中に」

とブルダ。


「大きな声を出さないで。出すなら

 広場で出してね」ともハジメに向かい

笑いながら言った。


「思ったんですがこの国に来て

 票を入れてくださいと言う、演説は

 聞いてませんね?そんなものなのですか?」

とジェニはハジメに言うと


どちらかと言うと小規模な集会を

何処かでやる、と言う繰り返しだな。

不特定多数の前で声を出して

訴えるのは珍しいな。


「俺ぐらいか?大昔にしたさ。

 屑にそそのかされて」と笑った。


「低位、下級の精霊なら少しは

 呼び出そうか?」とブルダ。


どれくらいだ?とハジメが聞くと

出来てもせいぜい20位ね。


「焼け石に水かもしれんが

 いたに越したことはない。頼む」

とハジメは頭を下げながら言った。


大通りをハジメを先頭に

右にジェニ、左にテージョ。

その後ろにブルダ。

最後にフードをかぶってマルチネ。


「お、おいハジメ様だ!生きていたんだ!」

と住民達は驚くと同時に歓喜する。


歩くと同時に、その歩数ぶんだけ

後ろからついてくるものが増えていく。


「すごい人気ですね」とジェニは笑う。

そう言いながらマルチネを見る。


マルチネは既に自分を中心に

その人数が入るくらいの結界を張る。


広場に着く。


「この辺でいいか・・・。」と言うと

ハジメは振り返る。


「居なくなってすまんかったな!」と

ハジメはそう言うと話を始めた。


すまんな!今回は負ける!惨敗だ!

多分、国のありようも変わるだろう。

仕組みも変わるだろう。


しかしお前たちは変わらないでくれ!

俺も変わらない!

だから俺をこの首都に居させてくれ。


議員となれば俺はこの国に居ることが

出来る!

お前たちと一緒に居ることができる。


俺は今までと変わらずお前たちの

ために働きたい!



演説は続く。しかし、


遠くの木の陰から下種な笑いを浮かべて

大きな箱を足元に置いている男が居た。

「いま、これを全部解き放ってやる。

 全員死んでしまえ、ひひひひひ」と。
















 




 









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