第2章9.5節 勇者、七龍伝説を知る

遥か昔、この星が生まれて間もない頃。

最初の生物が産まれた。

小さな頭に小さな体、茶色の鱗に包まれたその姿はまさに龍だった。

産まれたての龍は大地に芽生える木々を食べ、海を飲んで成長していった。

やがて龍の大きさがこの星の半分に達しようとした時だった。

龍に感情が宿ったのだ。龍にとってわからない感情、“寂しい”そう思ったのだ。

孤独にさいなまされた龍は、自らの命と引き換えに七匹しちひきの龍をこの星に産み落とした。自身は土へと還ったのだ。

産まれ落ちた七匹の龍はそれぞれ感情を持ち、姿も違った。

ある一匹は真っ赤な鱗に包まれ、大きな翼を広げて炎を吐いた。名を赫龍せきりゅう

ある一匹はゴツゴツした岩のような黄土色の鱗に身を包み、翼は無いが代わりに大きな角を有した。名を黄龍おうりゅう

ある一匹は滑らかな藍色の鱗を持ち、海の中で過ごすことを好んだ。名を蒼龍せいりゅう

ある一匹はフサフサな翠色の毛に覆われ、鳥のような翼を有していた。名を碧龍へきりゅう

ある一匹はザラザラとした鈍く輝きが薄い紫の鱗を持ち、細長い髭と角は濃い藍色をしていた。名を紫龍しりゅう

ある一匹は光沢のある金色の美しい鱗を持ち、体の半分はあるであろう立派な髭を生やしていた。名を白龍はくりゅう

そして最後の一匹、二つの禍々しい角を有し、背中には不気味な黒い翼を生やしていた。名を黒龍こくりゅう

七匹の龍は始めて見る他者(他の龍)に、様々な感情を宿らせた。

ある龍は困惑し、ある龍は怒りを見せ、ある龍は悲し気に見え、ある龍は笑みを浮かべ、ある龍は興味を示し、ある龍は楽しそうに飛び跳ね、ある龍は煩わしそうに顔を背けた。

七匹の龍は言葉を交わすこともなく、それぞれ別の方向へと歩み始めた。

七匹の龍には無かったのだ。“寂しい”という感情は。


「・・・これが七龍伝説です勇者様。」

「ほぉ~ん。」


興味なさそうに鼻をほじっていた勇者は立ち上がると黒龍に近づく。

見降ろされた黒龍は嫌そうに見上げる。


「つまりこいつがそのってか?んじゃババアじゃん!」

「年寄りという意味ならば少々違うぞよ。」

「はぁ?」

「我は生と死を司る番の龍の一匹ぞ?滅びゆく肉体のままでいるわけなかろうて。まだこの体は生まれて数十年といったところぞよ。人間で言うならば・・・童女と変わらぬ。最も、魂は産まれてから生き続けてるが。」

「そうかつまりテメェはロリババアってことだな。生憎だが嫌いな属性だ。ロリッになるなら合法ロリにしろよボケェッ!!」

「む?ろ、り?ろりこ?・・・ううむ。我の知らぬ言葉だ。その言葉の使い方を教えよ勇者。我が許可する。」

「そうか。いいかまずロリッ娘というのはだな・・・。」

「おい、その話は長くなるのか?」


マリヤの言葉など聞こえていないように勇者と黒龍は話し合う。

その姿を見ると伝説の黒龍には見えず、一人の童女にしか見えなかった。

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