第2章4節 現在の状況
「・・・99・・・100・・・101・・・102・・・103・・・。」
オリバーはラグに文句を言いたかったが、本人がいなくなってしまったために早速素振りを開始した。
最初こそ順調に振っていた木の棒も100回近くになると、かなりの重さに感じ始めていた。
そしてそれに比例するようにオリバーの腕は上がらなくなっていた。
「・・・105・・・・・106・・・・・・107・・・108・・・・ぐっ。」
まだ縦にしか振っていなかった腕は限界を迎え、木の棒を落してしまった。
拾おうと頭では動かしているが、体が言うことを聞かない。
手のひらを見ると、
「くそ・・・こんなに辛いのか。」
子供でも簡単に勝てるというラグの言葉を怒りの原動にしていたオリバーは苦笑いを浮かべる。
素振りをして、改めて自分が弱いということを自覚したのだ。
この程度で値を上げる自分は確かに子供より弱いのだろう。
だが、数分休憩すると潰れた肉刺は癒え、両腕の重みも消える。
「こういう時は自分の種族が役立つな。」
オーガ族の特性である再生能力が意外な形で役立ったことに難とも言えない気持ちになる。
だが、その気持ちをすぐさま払い、オリバーは木の棒を握りしめ素振りを再開する。
「109、110、111、112、113、114・・・。」
修業はまだ始まったばかりであり、オリバーの成長はここから始まるのだった。
視界が真っ赤に染まり、そこが何処かわからない。
全身を毛で覆われた巨大な化け物は目的もなく、ひたすら前へ、前へと進んで行く。
意識などなく、何かを考えることもなく、ただただ歩き続ける。
そんな化け物を監視する者がいた。
「・・・目標、進行方向変化なし。このままではススケラの村が崩壊することが確定。これで15個目の村も壊される。」
「ゼノ様。」
「・・・用件は?」
「副団長からです。何かしらの発見は無いか、とのことです。」
「心苦しいが、何も無い。魔獣は変化もしていないし、行動も変わっていない。」
「・・・同じ報告になりますね。」
「仕方がない。我々にもあの化け物が何なのかわからないのだから。村の人達は?」
「避難は完了しています。その先の村の住人も同様に。」
「了解した。引き続き監視任務を継続する。」
経過報告が終わり、移動する。
いつもなら部下は報告しに動くが、今回はついてくる。
それに、ゼノは疑問を持つ。
「・・・まだ何か?」
「・・・世間話をしても?」
「・・・許可する。」
「ありがとうございます。では、ゼノ様はあれは何だと思いますか?」
直球的な質問。
だが、ゼノの中にはその答えは既に用意されている。
「あれは魔獣と判断されているが、僕個人としては魔王なのではないかと推察している。」
「ま、魔王ですか!?」
「ああ。ただ、これは判断基準があったとかそういう訳ではない。個人的な願望だ。」
「が、願望ですか?」
「もし、勇者伝説が正しいのなら魔王の復活は勇者の誕生とも捉えることが出来る。だが、あれが魔獣ならば勇者は誕生してこないと僕は考えている。」
「な、なるほど。」
「だから願望。あれが魔王なら必ず何処かで勇者が誕生しているから。そして勇者が必ずあれを倒してくれるから。」
「おっしゃることは分かりました。では、勇者は何処に誕生したのでしょうか?」
「わからない。だが、希望があるということだけでも僕は重要だと思っている。」
「確かにそうですね。」
「一つ問う。神聖武器の方はどうなった?」
「信仰国は未だにこちらとの連絡を絶っています。おそらく、自分たちは関係ないということかと。」
「・・・同じ人族でも争いは生まれる。きっとこのことを使って上は信仰国を攻めるだろう。」
「あの魔獣を信仰国に送り込めれば楽なんですけどね。」
「それはそう。だが、あいつは何にも反応しない。」
「ひたすら前に進んでいるだけですもんね。ですが・・・。」
「そう、理由はわからないけどあいつは我々の王国の周りを永遠と歩き続けている。」
「謎ですよね~。あいつの行動理念は。」
「そろそろ報告に行け。副団長を怒らせてはいけない。」
「へいへい。」
部下は適当な返事をして、すぐにその姿を消す。
「・・・有能なところは認めるが、性格に難あり。」
必要はないが、何となくそのことをメモに記しておいた。
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