第2章4.5節 勇者、ダンジョンへ

「・・・ダンジョンって、本当に洞窟みたいなんだな。」

「それはどういう意味でしょうか?」

「何でもねぇよ。」


あの頃の嫌な記憶が蘇りそうで、頭を横に振って消す。

ふと、自分の手が視界に入る。

教会から支給された高価な鎧に身を包んだ姿、ミスリルというよくわからない鉱石?を使ったつるぎ、振り返れば女性で構成された5人のパーティー。

自分が願えば、その全てをエルレイヤが叶えてくれる。

都合のいい女、だ。


「んで、ここにあんのか?その伝説の剣ってのは。」

「おそらく、ではありますが。」

「おそらくって・・・なんか自信なさげ?」

「し、仕方ありませんよ!この目で確かめたわけではないのですから!!」

「どうでもいい。私は私の役割をこなす。」

「斥候をお願いしますね。勇者様はこちらで少々お待ちを。」


エルレイヤに誘わてテントの中へと入って行く。

軽装の少女はポーチの中を確認すると、真っすぐに洞窟へと走って行く。


「ダンジョン攻略って全員でやるんじゃねぇのか?」

「ご冗談を。そんなことして何かあった場合、取り返しがつきません。まずは斥候であるイスラさんにお任せを。どんな時も情報収集は大事ですよ。勇者様。」

「ま、それはそうか。んで、他の奴らは何してるんだ?」

「戦士であるマリヤさんと騎士であるミルダさんは防衛を。魔法使いであるテナさんは情報の精査と物資の確認です。イスラさんの偵察次第では近くの村に協力要請をしなければなりませんから。」

「・・・俺は何をすればいい?」

「今は待機です。その間は私がお話し相手になりましょう。もちろん、体のお相手も。」

「・・・他の女はダメってことか?」

「宿で、ということでしたらご自由に。ですが、ここでは油断が全滅へとつながるので私だけでお願いします。」

「・・・意外としっかりとしてるんだな。」

「ふふ。」


椅子に腰を掛け、剣を横に置く。

肩掛けのバッグから一冊の本を取り出し、表紙を眺める。

“勇者伝記”と書かれた表紙を。


「その本が何かございましたか?」

「いや、単純に俺以外にも勇者はいたんだなって思ってな。」

「そうですが・・・何か思う所でもあるのでしょうか?その本を見つけてから何度もを見てるようですから。」

「・・・。」


その本を見つけた時、正直驚いた。

その理由を確かめるように店主に尋ねたが、店主は知らないと言った。

だが、これが仮に意味があるとするならば。


「この隅っこの言葉、日本語じゃねぇか。しかも・・・。」


何かを言おうとして、口を閉ざす。

この世界で、誰かに心を許しちゃいけないからだ。

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