番外編その4 ???の進行

「・・・。」

「おはようさん。」

「ああ、おはよう。」


肌寒い夜が明け、徐々に温かくなってくる頃、その日もいつも通りの朝がやって来た。

後退の兵士と入れ替わり、上司に報告をして、詰め所を後にする。

既にちらほらと住民が店を開き始め、辺りから声が上がり始める。


「まだ、寝てるかもな。」


そんなことをつぶやきながら妻子が待つ我が家へと歩を進める。

この時間が地味に好きかもしれない。


「お!兄ちゃん!お勤めご苦労さん!今日も買ってかないかい?」

「ああ、そうさせてもらおう。」

「ハハハ!そう来なくっちゃな!今日のオススメは‟つみれと野菜のクリーム煮”だ!出来立てだよ!」

「ではそれと、黒パンを売ってくれ。」

「毎度アリ!!お代はクリーム煮だけでいいよ!黒パンはサービスだ!」

「いいのか?」

「いつも俺たちの為に働いてもらってんだ、サービスぐらいしなきゃな!」


気前のいい店主に頭を下げて礼を言う。

照れ臭そうに頭を撫でる店主と笑い合い、商品を受け取る。

平和だ。そうこれこそが人類が勝ち取った幸せなのだ。

長きにわたる魔族との戦争を経て手に入れた時間なのだ。


「ご先祖様に感謝しなくちゃな。」


当たり前のことが当たり前の様に幸せを感じる。


「おかえりなさい。」

「ただいま。起きていて大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。」


大きなお腹をした愛しい妻、そしてまだ寝てるであろう娘。

この幸せを、守らなければならない。


「あら?今日も買ってきてくれたの?」

「ああ。君に無理はさせられないさ。」

「ふふ。ありがとう、あなた。」


愛し合う二人の唇は、自然と重なり合う。

その瞬間の幸福に勝るものは無い。

そう、この時までは疑いもしなかった。



「あいつは今頃夫婦で愛を確かめてるかもな。チックショー独り身には羨ましいぜ!」

「真面目に見張りをしているのか、貴様は。」

「え?あ!た、隊長!お疲れ様です!」

「うむ。変わりは・・・何だあれは?」

「変わりはありま・・・へ?な、なッ!?」


それは突然姿を見せた。

全身を毛に覆われながらも、ハッキリと見える赤い瞳。

大きく開いた口らしきところから見えるどんな刃物よりも鋭そうな牙。

山をも越えていそうな大きな体。

兵士何人分かも予想できない程太い腕と壁を簡単に切り裂きそうな大きな爪。


「ばけ・・・もの・・・。」

「おい!何をしているッッ!!早く!民を非難させろ!!迎撃の準備をッッ!!!」


巨大な化け物は迷うことなく、進み続ける。

町では避難警報が鳴り響き、兵士たちが迎撃を試みようと城壁に集まる。

だが、それは無意味だ。

何故なら化け物には何の武器も効かないからだ。


「神様・・・。」


何処かの老人の願いも虚しく、この日一つの町が何事も無かったように消えた。

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