第1節18章 魔獣の判断材料

「・・・。」

「どうした?何故答えぬ。」


どう答えればいいのかわからず、ジェダイトの口は重く閉ざしてしまう。

そもそも兵士たちが見たのが魔獣なのか自分にはわからない。

自分の目で確かめたわけではなく、兵士たちによる報告から魔獣と判断したからだ。

が、武器による攻撃や魔法による攻撃を受け付けないのは歴史上の魔獣たちの特徴であり、知る限りの知識の中に同じような特徴の魔族はいない。

だから魔獣だろうと判断した。判断はしたが、それが正しいのかは今でも不明ではある。


「答えろ、ジェダイト。」


圧の強い声に、ジェダイトの口はゆっくりと開く。


「・・・報告書に記載した通りでございます。武器による攻撃及び、魔法による攻撃を受け付けなかった為に魔獣と判断しました。」

「本当に効かなかったのか?」

「・・・。」

「どうなんだジェダイト。」


深く息を吸い、深く息を吐く。

ここからが勝負どころであるので、ジェダイトは気持ちを落ち着かせたのだ。

場合によっては死を覚悟しなければならないからだ。


「・・・お恥ずかしい話ではありますが、自分はこの目で魔獣を見ていません。気を失い、兵士に命を救われ、その後に兵士の報告からが魔獣と判断しました。重ね重ね恥をさらすようではありますが、魔獣と判断したのは自分の知識に同様の特徴を備えた魔族が思い浮かばなかった為です。」

「・・・そうか。」

「申し訳ありません!」


深々と頭を下げ、なるべく顔を見せないようにする。

きっと今のジェダイトの顔は屈辱にまみれているからだ。

そんな顔を見せては余計な感情を抱かせる。

だから今は嫌でも頭を下げる。


「確かに私の知識にもそんな魔族は存在しない。だから貴様の判断は正しいと言えるだろう。だが、隠れて存在をみせていない我々の知らない魔族の存在も警戒するようにしろ。いいな?」

「ハッ!」

「その後、魔獣は何処かに姿を消したのだな?」

「兵士からはそう報告を受けています。」

「何処に向かったかもわからないのだな?」

「・・・申し訳ありません。」

「構わん。貴様は気を失っていたのだろ?ならば責任は報告した兵士に補ってもらおうではないか。」


心の中で報告した兵士に謝罪をし、頭を上げる。

気持ちを落ち着かせることが出来たので、表情は元の無表情に戻せている。


「話は戻るが、魔獣が本当ならば爆発についてはある程度の答えは用意出来る。ただし、これは非公式だ。聞きたいのであるならば覚悟しろ。」

「・・・お願いします。」

「・・・魔獣が発生する時、周囲の何かしらの力を吸収して産まれるそうだ。そして必要なかった力が一気に解き放たれる。それが爆発のような現象を起こすそうだ。」

「・・・それは、実験か何かで得た答えですか?」

「いいや。捕まえたエルフを拷問して手に入れた話だそうだ。限りなく正しいと言えるだろう。」

「エルフを、ですか?」

「ああ。貴様は亜人平等主義者か?」

「いいえ、そういう訳では。」

「人型に近い魔族を亜人と呼び、我々人族と共に歩もうとする考え、か。実にくだらん。人族は人族、魔族は魔族。どうして例外を作りたがるのか、それはエルフの様に見目麗しい姿に糞共が劣情を覚えた結果があるからだ。わかるか?」

「・・・少しは。」

「そういうやからは全て始末する。それはこれからもだ。決して人族と魔族は相容れない。それが全ての人間の総意だ。」

「おしゃる通りです。」

「・・・ムーチンは・・・。」

「は?」

「いや、何も。」


窓際に立つ男の後ろ姿は何かを語ろうとしていたが、ジェダイトにはわからなかった。ただ、少しだけ寂しそうにも見えた。

そんなことを考えていると、扉が勢いよく開かれる。


「なんだなんだ?ここは葬式場か?あぁ?」

「ッ!!貴様はッ!!」


部屋に入ってきたドレッドヘアーの大男に向け、剣を構えようと腰に手が伸びたが、空を切る。

一瞬だけ焦るが、すぐさま睨みつけて威圧する。

それをものともせず、大男はドカッとソファーに座る。


「おっかねぇなジェダイト。ここが帯刀禁止で良かったぜ。」

「ナーゲロック!貴様がどうしてここにッ!!」

「私が呼んだからだ。」

「なッ!?」


男はナーゲロックの前にあるソファーに座る。


「久しいなナーゲロック。十分に休めたか?」

「へっ。皮肉を言いなさんなよクラビスの旦那。あんな場所の寝心地が良かったら喜んで犯罪者になるって奴らが増えるぜ?」

「ふっ。元気そうなら問題は無い。仕事だナーゲロック、貴様を黒騎士部隊の団長に任命する。ジェダイト、貴様は引き続き副団長として団長を支えろ。団の再編も急げ。いいな?」

「お、お待ちください!!どうしてナーゲロックが団長に!?こいつは犯罪者です!!それも重罪のです!!!」

「ダハハハハッ!」

「貴様の言う重罪とはのことか?だとしたらおかしな話だ。」

「は?」

「何故、こいつは生きている?」

「い、言ってる意味が・・・ッ!!?」

「理解したか?俺は王族ではなく、糞を掃除したってだけだ。わかるか?ジェダイトよぉ。」

「・・・第一王子は魔族と通じていた、ということでしょうか?」

「通じていたかどうかは定かではない。」

「あの糞はエルフのねぇちゃんとズッコンバッコンしてたんだよ。」

「・・・姦淫、ですか。」

「そういうことだ。だから私が命じてナーゲロックに実行させた。それだけだ。」

「ダハハハハッ!王族を殺したら即処刑だぜ?俺が生きてるんだからそこから察しろよぉ?ジェダイトよぉ。」

「・・・申し訳、ありません。」

「性格に難はあるが、実力は本物だ。ジェダイト、貴様がナーゲロックの頭になってやれ。」

「期待してるぜぇジェダイトよぉ。」

「・・・畏まりました。」

「お話は終わったかぇ?」


話しが終わったタイミングでもう一人、部屋に入ってきたのだった。

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