第1章18節 モロ族のラグ・モロ
朝日が昇る頃、コロポックル族の村は既に活気に満ちていた。
コロポックル族が朝から活動しているのもあるが、今回は中央の広場でリザードマン達が店を開いてることが大きい。
「これが欲しいのです!」
「わかった。お代は木の実ダ。」
「了解なのです!」
金銭という流通を持っていないのか、コロポックル族とリザードマンのやり取りは全て物々交換である。
これにはオリバーも頭を悩ませた。
ウキキ達商人がお金のやり取りをしていたからリザードマンにも同じように対応しようと考えていたからだ。
だが、コロコロに取り計らいによりリザードマンと話すことは出来た。
「この方がこの小隊の代表者なのです!」
「リザードマンが種、モロ族のラグ・モロと申しまス。」
「ああ。俺はオリバー、見ての通りのオーガだ。こっちは仲間のミミとウキキだ。」
「妻の!ミミです。コボルト族です。」
ミミの圧に若干怯んだが、咳払いをして気を持ち直す。
「あんたらに話を聞きたくてコロコロに頼んだんだ。いくつか質問してもいいか?」
「・・・魔王について、でしたらお答えすることは出来まセン。」
「ッ!!?」
知りたいことを聞く前に阻止されてしまい、言葉が詰まる。
ラグの瞳がオリバーを射抜き、全てを見透かされているような感覚に陥る。
だから、やっとの思いで出せた声には緊張が乗っていた。
「・・・何故?」
「その何故はどれについてでしょうカ。どのみち質問されるのであるならば、先に全てお答えしまショウ。」
瞳を閉じ、静かに深呼吸してからラグはゆっくりと口を開く。
「貴方はオーガ族でありながら知性的な話し方をスル。つまり、特殊個体ということなのでショウ。ということは“キングの資質”の持ち主であり、魔王に成ろうとしてイル。違いますカ?」
「あ、ああ。そうだ。」
「と、いうことは知りたいのは魔王への成り方でショウ。先に申し上げれば、我々リザードマン達はそれを知っていまス。」
「な、なら!教えてくれ!!」
「お答えすることはできまセン。」
「何故だ!?」
「我々は一部だけ知っていますが、全ては知っていまセン。魔王への成り方の全てを知っているのは族長のみデス。けれど、その一部のみでも我々は危険と判断してイマス。なので、お答えすることは出来まセン。」
「だ、だが!俺はッ!!」
「そもそも、貴方は魔王について何を知っているのデスカ。」
「な、何をって・・・。」
ラグに聞かれてオリバーは答えに困る。
ただ漠然と自分が魔王に成れると言われたから成ってみたいという興奮と、力を欲した程度しかオリバーには無い。
魔王に成りたいと思ったが、魔王を知ろうとはしなかったのだ。
それを、ラグは見抜いていた。
「我々魔族の本質の中に‟力を求める”ということがありマス。だから貴方が魔王に成ろうとする気持ちを我々は否定しまセン。が、肯定もしまセン。それは我々が魔王について知っているからデス。貴方は魔王について何も知らナイ。そうでショウ?」
「・・・ああ。確かに知らない。なら!あんたが教えてくれよ!」
「・・・なんですト?」
「俺は確かに漠然とした思いしかない。魔王についてほとんど知らない。けど、知りたくない訳じゃない。俺も知りたいんだ!魔王を!」
「・・・その瞳は揺らぎませんカ。」
「ああ!」
「・・・なら、まずはかつての魔王についてお話しさせて頂きマス。」
ラグは目を閉じて思い出しながら語る。
魔王と成ってしまった悲しいリザードマンについて。
『かつて、魔族と人族の間には不可侵条約が締結されていた。そこに例外は無く、互いが互いを干渉しないものだった。魔族はそれをずっと守り抜いてきた。ところが、人族の欲望は魔族の想像以上だった。人族は欲したのだ。エルフの美貌を、ドワーフの技術を、ハーピー族の飛行能力を、ゴート族の知性等を。人族の欲望は無いものをねだり、膨れ上がった欲望を制御する気が無かった。エルフ族を
語り終えたラグは眼を開ける。
「後の結末は貴方達も知っているダロウ。」
「俺がじじいに聞いたのとは違うんだな。」
「今の歴史については人族にいいように捻じ曲げられていマス。何故ならその方が・・・。」
「都合がいい、か。」
「・・・おっしゃる通りデス。」
オリバーの握る手にゆっくりと、強く力が込められた。
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