第2章8節 月日の流れ
「おいおい見たか?」
「見た見た!マジかよってな!」
「ああ!俺はヤルぜ!」
「俺だって!!」
いつも以上に賑やかな酒場を二階の席から見下ろす。
話し声から察するにあの事であることをすぐに理解する。
「・・・適性審査、か。」
フードを深くかぶった男はため息を吐く。
下でバカ騒ぎをしている連中が少しだけ羨ましく思えたのだ。
かつての自分を見ているようだったからだ。
「おい!聞いたかエッジ!適性審査の話しをよぉ!!!」
「うるさいぞキャスドール。その話は俺には禁句だ。」
「はぁ!!?お前まだ引きづってんのか?大昔の話しをよぉ?」
「大昔ではない!10年前の話しだ!!」
「10年は大昔でいいだろ!んなことよりも適性審査だって!!もちろん、お前も参加するんだろ?」
「・・・。」
「おいおいそこは即答しろよぉ!何だァ?悩んでんのか?」
「それはそうだろ。俺は一度適性審査に落ちてるんだからな。簡単には参加なんて出来ないな。落ちることは明白だし。」
「はぁ!!?んなもんわかんねーだろうがッ!昔はダメでも今は受かるかもしれねーだろうがよぉ!!」
「無理だ。一度審査して選ばれなかった。神聖武器が心変わりでもしてるんだったら確かにわからないが、武器は武器だ。心なんてある訳ないだろ。」
「だぁぁぁぁぁもうっ!!んなことグチグチ考えてんじゃねーーよぉ!昔は昔、今は今!だろ?単純に力不足だったっつう話かもしんねーじゃん!」
「だが・・・。」
「うるせぇんだよ!!!もうお前も参加するって申請した後だボケェッ!!」
「はぁ!!?何を勝手に!!!?」
「明後日は審査だ審査!遅れんじゃねぇーぞ!!」
「あ、おい!キャスドール!!・・・はぁ~。まったく・・・。」
キャスドールの勝手さに頭を掻くが、同時に笑みも零れる。
自分自身、あの時よりも強くなったのは理解できている。
今なら審査に通るかもしれない。そう、思ってもいた。
だが、勇気が無かった。
もう一度受けてまた落ちたら今度こそ立ち直れないと分かっていたからだ。
「・・・ありがとな、キャスドール。」
友人に礼を言い、エッジは帰路につく。
その眼に迷いはなかった。
修業を始めて3ヶ月が過ぎた。
初めの頃は木の棒をただ振っていたオリバーは、今では戦斧を軽々と振るい、その瞳には仮想の敵が見えている。
「・・・何か用か?ラグ。」
「流石に上達しまシタネ。オリバーさん。」
「まだ何となくだが、お前の言う相手の殺気っていうのは分かるような気がする。」
「それだけでも成長デス。それに今の貴方は武器をしっかりと振るえてイマス。これは子供でも勝てませんヨ。」
「だが、まだお前には勝てない。そうだろ?」
「ええ。簡単に倒されては師匠としては顔が立ちマセン。私を倒したければまだまだ修行デスヨ、オリバーさん。」
「ああ、わかっている。それで?何か用事があるんだろ?」
「ええ。オリバーさん、貴方は第一段階を合格しまシタ。これより修業は第二段階へと進ませていただきマス。」
「第二段階?何をするんだ?」
「ダンジョンへと潜ってもらいマス。」
「ダンジョン・・・だと・・・?」
「ええ。ダンジョンに潜ってもらいマス。」
「・・・。」
「・・・。」
「ダンジョンって何だ?」
「ダンジョンとは魔物と呼ばれる不思議な生き物、つまり経験を積むために役立つ敵が無限に湧いてくる場所のことデス。」
「なるほどな。次は敵と戦うことで経験を積むのか。」
「その通りデス。こちらに一週間分の食料をご用意しマシタ。オリバーさんには一週間ダンジョンに潜ってもらい、一日の休暇を与えマス。その繰り返しデス。」
「その間の素振りはどうなるんだ?」
「ご自由にデス。早く強くなりたければ一日も欠かさないことをおすすめシマス。」
「結局やれってことか。じゃあ早速そのダンジョンとやらに案内してくれ。」
「ではこれをお付けクダサイ。」
「・・・これを?」
「ええ。場所を特定されてはならないノデ。」
ニコっと笑うラグは有無を言わせない様子で、オリバーは素直に従った。
次の瞬間、何か甘い香りが漂うと同時にオリバーは意識を失った。
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