第13.5節 勇者、商人と取引す

「お帰りなさいませ、勇者様。」


勇者が馬車を降りると、真っ先にエルレイヤが出迎えてくれる。

だがその姿は普通ではなく、下着にエプロンというほぼ裸のような格好だった。

御者の視線がエルレイヤにいやらしく向く。

気にした様子はないが、勇者にとっては気分があまり良くないので馬車を蹴って帰るように促す。

ビクッと体を震わせ、御者は慌てて動き出す。


「・・・ありがとうございます。勇者様。」

「何のことだ?」


フイッと顔を逸らす勇者が可愛くてエルレイヤは思わず笑ってしまう。


「そ、それよりもだ!なんか用だったんじゃないのか?」

「はい、ブンブ様がお越しになっています。」

「わかった。」


勇者が歩く後ろをエルレイヤは付いていく。

屋敷に入ってすぐ左にある部屋に入ると、巨漢の男が似つかわしくない小さなカップで紅茶を飲んでいる。

そのすぐ近くではエルレイヤと同じ格好をした女性が二人立っていて、もう一人フードを被った何者かが立っている。


「ようブンブ、相変わらず鼻だけは良いな。」

「オホホホ。誉め言葉として頂戴いたしますよぉ。勇者様。」


語尾にハートマークでもついていそうな話し方に勇者は嫌悪感むき出しでソファーに座る。

座るとほぼ同時に勇者の前にも紅茶が置かれる。


「で、用件は何だ?」

「ンフフフ。相変わらずお忙しいのでしょうかねぇ。ワタクシとはおしゃべりもしないのですかなぁ?」

「フン。テメェと喋ったらその気持ち悪い話し方に頭がイカれるんだよ。」

「オホホホホホ。勇者様はジョークも一流ですねぇ。」

「で、いい加減に話せよブンブ。追い出すぞ?」


勇者の威圧にブンブは怯むことなく紅茶に口を付ける。

軽く息を吐くと、先程までとはガラリと雰囲気を変えてくる。


「小耳にはさんだのですがねぇ。伝説の武器の話は嘘、だったとか?」

「・・・。」

「ンフフフ。その様子では間違いないようですねぇ。」

「だから何だ?お前が代わりの新しい情報でもくれるのか?言っておくがもう奴隷はいらねぇかんな?この屋敷を見ろ。もう女は十分だ。」


言いながら勇者は隣に座るエルレイヤの胸を鷲掴みにする。

エルレイヤから甘い吐息が漏れると、立っていた女性二人も羨ましそうに勇者を見つめる。


「ンフフフ。そのようですねぇ。ですが、今回は違う商品を仕入れましてねぇ・・・についての情報です。お買い上げをと、聞くまでも無いご様子ですねぇ。」


座り直した勇者に笑みを浮かべるブンブ。

まるで思い描ていたようで、勇者は気分が悪い。


「・・・どういう情報だ?場合によっては買ってやるよ。」

「お知りになりたい情報、とだけ言っておきましょうかねぇ。」


笑うブンブに勇者は懐から金の入った袋をテーブルに出す。


「前金だ。質によっては追加で出してやる。」

「オホホホホホ。流石は勇者様ですねぇ。」


ブンブは受け取ると、フードを被った者を隣に座らせた。

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