第2章13節 ムットの作戦

「あちしは、悔しいんよ。ムットさん。」


ムットが考えこんでいると、ウキキが口を開く。

声色から本当に悔しい気持ちが伝わってくると同時に、何か嫌な感じもしている。

だからムットは口を開かずに聞くことにする。


「おぃが何をしたっていうんよ!あちしが何をしたんよ!!何で!どうして!!何でお兄ぃが殺されなきゃいけないんよ!!おかしいんよ!」


涙をこぼすウキキを見て、ムットは心の中で覚悟を決める。

深呼吸をし、頬を叩いてウキキに向き直る。


「お嬢、本当にお兄様は殺されたんですね?」

「間違いないんよ!!」

「・・・お聞きし辛いことを言いますが、お兄様の遺体には何か無かったのですかな?申し訳ありませんが、黒騎士部隊がむやみに人を殺すとはとても思えません。そもそも、彼らは王直轄部隊です。彼らが動いたということは王命ということになるのですよ。」

「確かに殺されたお兄ぃの姿は見てないけど・・・。で、でも!!」

「お待ちを。ふむ・・・と、いうことはですよ。お兄様が生きているという可能性もあるのではないでしょうか?」

「わかんないんよ。でも・・・でも!!」

「お嬢、お気持ちはお察しします。ですが、これはとても重要なことです。もし仮にお兄様が生きてらっしゃるのなら、お救いしなければなりません。」

「え?協力してくれるの?」

「もちろんです。私どもは貴方がたに恩があります。ですので、困っているのであるならば無償でお助けしましょう。」

「ぐすっ・・・ありがと、ムットさん。」


ムットはそっとタオルを渡す。

受け取ったウキキは顔を拭き、鼻をかむ。

安堵したのか、ぐぅ~っとお腹が鳴る。


「あははは。」

「まずは食事にしましょう。そして今後について綿密にお話ししましょう。おい!」


ムットが声をかけると、すぐに女性が食事の用意をしてくれる。

テーブルの上に出された温かい食べ物に、ウキキの頬がほころぶ。

ムットが食べるように勧めると、ウキキは無我夢中で食べ始める。

落ち着くまで、ムットはコーヒーを嗜むのであった。



「落ち着かれましたかな?」

「うん。ありがとムットさん。」

「いえいえ。さて、今後について話し合いましょう。まず、お兄様の生死は不明ということなので、生きていると仮定をしましょう。よろしいですね?」

「う、うん。」

「では、救出作戦ということになります。居場所は・・・そうですね~まぁ、牢屋にいるでしょうな。」

「うん、あちしもそう思う。」

「ふむ・・・まずは実績を作らなければなりませんなぁ。」

「実績?どうして?」

「はい、それはですね。王城に無傷で入るにはが入った通行手形が必要になります。それには王家に対して有益な取引をしたという実績が必要になってくるのです。」

「今持っている人から譲ってもらうってことは出来ないの?」

「出来るかもしれませんが、すぐにバレてしまうと思います。なので、その作戦は止めておいた方が良いと判断します。」

「そっか・・・。」

「ですが運が良いのか悪いのか、今は通行手形が手に入りやすいのです。」

「え!?どうして!?」

「少し前に勇者御一行が帰還しております。勇者がこの国に来てからは勇者の為になるならば、という名目で様々なものが王国で売れます。例えば・・・女性や情報とかです。女性は好みがあるので置いとくとして、女性に必要なものは売れます。宝石や化粧品のたぐい、ドレスなどです。それらなら私共でも用意することは可能でしょう。」

「でもそれやったら他の商人にもできそうやな。」

「ええ。ですので、それに加えて情報を売るのです。」

「情報?でも、何か有益なものって・・・。」

「今彼らは神聖武器や伝説の武器等の情報を欲していることは調査済みです。この情報ならば彼らも買うでしょう。」

「そ、そっか!でも、そんな情報はあちしには無いよ?」

「嘘を作り上げます。」

「ええ!!?それがバレたらダメなんやないの!?」

「ええ。ですので、真実を織り交ぜた嘘を作り上げます。」

「で、出来るん?」

「ええ。これでも行商人ですからね。神聖武器に関しては少々小耳にはさんだ情報があります。なので、そこに嘘を織り交ぜて作ります。」

「わ、わかったんよ。じゃ、じゃあ!あちしは何をすればええの?」

「武力の補充です。私の所にある武力程度では足りないでしょう。ですので、お嬢には冒険者組合に入ってもらいたいのです。」

「ぼ、冒険者組合っ!!?」

「ええ。傭兵という手もありますが、彼らは最終手段でしょう。なので、お嬢には冒険者の協力者を集めてもらいたいのです。まずはそこから始めましょう。後の作戦は現段階の準備が出来てからにしましょう。」

「うん・・・あちし、頑張るんよ。」

「ええ。我々も更に情報を集めておきます。ですのでこれを。」

「これは?」

「“銀の通行手形”です。これならば王城、貴族街以外ならば出入り自由です。無くさないように。」


ウキキは受け取った通行手形を袋に入れて首から下げる。

ムットをいると、力強く頷かれる。


「では、朝日を待って始めましょう。」


通行手形の入った袋をギュッと握ってウキキは頷く。

兄の笑顔を思い浮かべて。

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