第2章14節 ダンジョンその4
オオゴブリンモドキを倒し続けて進むと、少し開けた場所が見えてくる。
いつもの休憩場所かと足を踏み入れると、言い知れぬ何かを感じた。
その正体を探すように見回そうとした時、目の前に巨大な扉があることに気づいた。
「なんだ・・・これ・・・?」
辺りを警戒しながらもその扉に近づき、手を伸ばす。
森の中には似つかわしくないそれはオリバーが触れると、淡く光りゆっくりと開いていく。
まるでその先に進むことを誰かに望まれているような感覚になり、気づけばオリバーは扉の奥へと足を踏み入れていた。
「あ!」
気づいた時には扉は閉まり、森の中から石畳が広がる場所へと変化していた。
慌てて扉に向かおうとした時、視線を感じた。
流れるように武器を構えると、石畳の部屋の奥には石の椅子に座る何かが見えた。
「・・・誰だ?」
オリバーの問いにそれは反応をしなかった。
少しの間の沈黙。汗が額から頬を伝う。
「・・・フゥーッ。よし!やるか!!」
ダンジョンの奥に潜んでいたそれをオリバーは敵と判断する。
相手から動いてこない為、オリバーから動くことにする。
右足に力を籠め、相手を見据えて走り出す。
遠くにも思えた距離は予想よりも近く、だんだんと敵に近づいていく。
先手必勝!その思いのままに戦斧で薙ぎ払おうとして驚く。
意志の椅子に座っていたのは人型の骸骨だったからだ。
「くっ!!」
咄嗟の判断で戦斧から手を放して攻撃を強制的に止める。
手から離れた戦斧は勢いのままに石の壁に激突して音を立てて落ちる。
瞬時に距離を取り、武器の下へと駆ける。
拾ってすぐに構えること数秒。部屋の中に何の変化も起きていないことを確認してからオリバーはゆっくりと骸骨に近づく。
「・・・本物だよな?」
指先で軽く叩くが反応はない。
戦斧を近くに置き、骸骨に触れてみる。
オリバーにはよくわからなかったが、かなり古そうである。
「この骸骨はいったい・・・ん?これは手紙か?」
骸骨の足元に落ちていた紙を拾い上げる。
折りたたまれていた紙を広げると、こう書かれていた。
“私の時間はもう長くはない。ここに閉じ込められてからどれくらい経ったかわからないが、今の私にできる最高傑作をここに残す。願わくば、これが善の心のある者へ・・・”
それ以上は読めなかった。
「最高傑作?そんなもの何処に・・・?」
辺りを見回すがそれらしきものは見当たらない。
椅子の周りも調べたが特に何もない。
「・・・まさか、な。」
気が引けたが、骸骨をどかし石の椅子を動かしてみる。
だが、全く動く気配は無い。
仕方なく戦斧を振り下ろして破壊すると、椅子の下には窪みがあり、中に一冊の本が置いてあった。
拾い上げると、表紙には“親愛なる誰かへ。我が日記を。”と書かれていた。
広げると、びっしりと文字が書かれていた。
『ある晴れた日、私はこの世界に現れた。よくわからないままに偉そうな連中に勇者と祭り上げられた。嫌だったが、私に選択肢は無かった。』
その一文を呼んで、この本が勇者が書いた本なのではないかと察する。
その先を読もうと思ったが、自分だけで読んでもわからないことがあると思い、オリバーはバッグに入れてその場を後にする。
石畳の道を歩くと、またしても大きな扉が姿を見せる。
だが、今度は最初から開いていた。
何の疑問も持たずにオリバーは中へと入った。
「・・・っ!」
入った瞬間、光に包まれオリバーは目を閉じてしまった。
気づけば、目の前には草原が広がっている。
「・・・ここは入口か?」
振り返ると、最初に見たダンジョンの入り口がある。
「攻略したのか?」
「そのようデスネ。」
「っ!!?」
「ハハハハハ。そんなに驚かなくテモ。」
「・・・ラグ、驚かすな。」
「それは失礼ヲ。それで、いかがデシタカ?初めてのダンジョンの感想ハ?」
「あ~・・・なんつうか、こう、想像していたものとは微妙に違った、かな。」
「そうですか?このダンジョンは比較的簡単で敵も強くなく、ボスモンスターと呼ばれるものもオリマセン。なので、修行する上ではとても良い場所・・・!!?」
「何だよ?」
ラグの目が見開かれる。
それにつられて視線の先を見れば、オリバーも目を見開く。
何故なら、先程まであった広大な森が消えていたからだ。
突然のことに反応できずにいると、ラグが両肩を持ち、揺すられる。
「い、いったい!?な、何をしたんデスカ!!?オリバーさん!!?」
「お、俺は何も!?っていうかダンジョンって消えるのかよ!!?」
「いえ!こんなことは初めてデス!!ダンジョンが消えることなんてこれまでは無かったんデス!!」
「じゃ、じゃあ何で?」
「わかりマセン!何か特別な条件があったのではないデショウカ?とにかく!一刻も早く村長に!!」
ラグに引っ張られながらオリバーは村へと帰るのであった。
ライフ・オブ・ザ・オーガ calbee @calbee-S
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