この物語は、美しい「赤」で描かれている。
赤。紅。朱。緋。真紅。カーマイン。バーミリオン。そして、ブラッドレッド。
吸血鬼として生き帰った主人公には、様々な「赤」で彩られた運命が待っていた。
その運命は、転生チートと無双に飼い慣らされた我々が、とうの昔に忘れてしまった『大いなる力には大いなる責任が伴う』もの。それ故にこの物語は、乱読耽溺を重ねてきた目の肥えた読み手や、自ら筆を執るという禁呪に手を染めた創作者たちにとって噛み応えのある作品だといえる。
その噛み応えの根本は、心情、挙措、情景の描写の細緻さ。
平易な語句を使っても、決して卑俗にはならない文章力。
いつの間にか主人公の心情にのめりこんでしまう没入感。
この話は、地下鉄に揺られながらスキマ時間に読む話じゃない。
それは、とうてい、もったいない。
夜、はちみつと少しのブランデーをカップの底に沈めた紅茶でも入れて、ゆっくり腰を据えてこそ、十全に楽しめる作品です。
俺TUEEE世界に食傷してしまった方へ、おすすめです。