第2章3節 新たな目的
リザードマン族の村長と話してからオリバーは考え続けた。
考えて、考えて、考えて。
そして遂に結論を出すことにした。
「・・・考え続けても何も変わらないな。うしっ!」
オリバーが決めたことはシンプルだった。
それは新たな目的を持つことである。
これまでは“魔王に成る”という漠然とした目的を行動の軸にしていた。
だが、それがどうにもならないとわかった今だからこそやるべきことが見えてくることもある。
これまで狭かった視界が広がり、大きな目的のためには小さな目的をコツコツと積み上げていかなければならないということに、今更気づいたのだ。
「と、いう訳で婆さんには魔王に必要なことを教えて欲しいんだ。」
やることが見えればオリバーの行動は早い。
部屋から飛び出ると、真っ先に村長を訪ねた。
もう来ないだろうと思っていた村長はオリバー来訪に開いた口が塞がらなかった。
「も、もう一度言いますが、貴方が魔王に成ることは無いんですよ?」
「それでもだ!やれることをやるのと、やれることをやらないのでは結果が違うと俺は思う。万が一に魔王になれる機会が来た時に今度は俺が選ばれなければならないからな。」
「・・・そうですか。貴方の決意は分かりました。ならば、我らもそれのお応えしましょう。」
「頼む!」
「まず、魔王に必要なのは力、単純で純粋な“武力”です。」
「武力・・・。」
「魔王とは最強でなければなりません。その為には今以上に貴方は強くならなければなりません。」
「確かにそうかもしれないな。今までの俺じゃ、敗け方しか知らねぇ。」
「ですので、この村最強の兵士に貴方の訓練を見てもらいましょう。ラグに案内を頼んでおきます。」
「頼む。」
早速訓練に向かおうと動いた時、村長は小さくつぶやくのが聞こえた。
「・・・もし・・・。」
「ん?」
「いえ、何でもありません。」
オリバーは聞き返そうと思ったが、やめた。
今は強くなることに集中したかったからだ。
外に出ると、早速ラグに案内を頼んだ。
「オリバーさん!良かったデス。私のせいで貴方を落ち込ませたかと思いマシタ。」
「落ち込んではいないな。ただ、何も見えてなかっただけだ。それよりも俺は強くなりたい!この村の最強の兵士の下へと案内してくれ。」
「そうですか。では、こちらヘドウゾ。」
ラグに連れられてきたのは湿地の中にある沼地。
辺りを見ても誰もいない。
「・・・どこにいるんだ?」
「貴方の目の前にイマス。」
「・・・そういうことか。」
「ええ。私がモロ族最強の兵士、ラグ・モロでございマス。」
「なら早速いいか?」
「ええ。」
背負っていた戦斧を構え、ラグはニヤリと笑う。
「何処からでもどうゾ。」
「行くぞッ!!!」
オリバーは無我夢中で飛び掛かり、そして意識を失った。
「・・・ぐっ。」
「気づかれましタカ?」
「俺は・・・?」
「オリバーさんの戦闘センスの無さがこれほどとは思いませんデシタ。」
「うぐっ!?」
「今までよく生き残ってこれましタネ。」
「ぐふっ!?」
「とりあえず運だけは認めておきマショウ。」
「ぐはっ!?」
評価はズタボロ。わかってはいたが、自分の弱さを再認識すると情けない気持ちになる。
言い訳になるが、オリバーはこれまで勝つということを禁止され続けた。
一時期は怒りに身を任せて暴れたこともあったが、それでも敗けた。
結局のところ、オリバーは戦い方を知らないのだ。
「基礎訓練からすることを提案シマス。地道な努力こそ最強への近道デス。」
「わかった。じゃあ、何をすればいい?」
「まずはイメージですカネ。」
「イメージ?ってどういう?」
「オリバーさんがどんな風に戦いたいか、ということデス。」
「どんな風にって・・・う~ん・・・。」
考えたことも無かった。
今まで我武者羅に暴れるか、適当に斬られて敗けていたから想像すらしなかったのだ。戦う自分というものを。
「失礼ですが、今のオリバーさんでは子供でも簡単に勝てマス。強くなりたいのならイメージを持つことデス。」
「例えばどんなのだ?」
「そうですね・・・使いたい武器から決めるのも良し、攻撃的に強くなりたいのか、はたまた防御的に強くなりたいかで決めるのも良いデショウ。何かありまセンカ?」
「・・・あんまりわからんな。とりあえず、それでいいや。」
「それって・・・戦斧のことデスカ?」
「ああ。俺は知らねぇんだ。だから何でも出来るようになりてぇって今思った。」
「・・・そうですか。なら教えまショウ。」
ラグはこうなることを予想していたかのように準備していた木の棒をオリバーに渡す。受け取ると、その木の棒は太くて長い。
「これは?」
「まずは基礎訓練デス。今日から縦振り500回、横振り500回のノルマを毎日こなしてもらいマス。お手本はこうデス。」
ラグは戦斧を大きく縦と横に振る。
「これをそれぞれ500回です。出来るまでご飯は無しです。」
「なんだと!?」
「それくらいの覚悟があるのでショウ?」
「ぐっ。」
「私が認めるまで毎日続けてください。それから訓練はここでお願いシマス。では、私は仕事に戻りマス。」
それだけ言い残し、ラグは村へと戻って行った。
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