第1章16節 小さな少年との出会い

魔獣出現の報が各国に飛び回る少し前、オリバー達はとある村を訪れていた。


「ここが、お前の村なのか?」

「そうなのです!」


目を輝かせながら自慢気な顔をこちらに向けてきているのは、先程助けた小さな少年、コロポックル族だ。

見た目は人間でいうところの5歳児に見えるが、既に大人だという。

正直ウキキに聞かなければ助けようともしなかったし、助けた後も少しだけ信じていなかった。

だが目の前の家が小さな村を見れば、納得するしかない。


「おもてなしをするのです!こっちなのです!」

「あ、ああ。」

「わ~い!おっもてなし!おっもてなし~!」


コロポックル族の少年に手を引かれながら村の中を進む。

体が大きいから目立つのだろう。みんなこちらに視線を向けてくる。

コボルト村と既視感を感じそうだが、あちらとは違いこちらに向けてくる視線には好意的なものしか感じない。

何とも警戒心の無さそうな村だ。


「ここがオイラの家なのです!」

「わ~ちいさなお家だね~。」


確かに小さい家だ。高さは自分の背丈と変わらず、中に入ることは出来なさそうだ。

ウキキとミミが何とか入れるくらいじゃないだろうか。


「ごめんなのです!オーガさんの大きさはオイラ達にとっては想定外なのです!」

「まぁ、そうだろうな。」

「お外でのおもてなしでもいいのです?」

「構わないが、これは何に使うんだ?」


ずっと手に持っていた黄色の花。これがこのコロポックル族の少年を助けるきっかけになったのだ。


「そうなのです!そのお花をくださいなのです!」

「ああ。」

「ありがとうなのです!改めて自己紹介なのです!オイラはコロコロなのです!この村で農家の代表をやってるのです!」

「俺はオリバー。んで、こっちがミミとウキキだ。」

「よろしくね~。」

「よろしくお願いするん。」

「はいお願いなのです!そして本当にあの時はありがとうなのです!」


村に入る前、あてもなく森を彷徨っていた時だった。

運よく見つけた川の近くで、コロコロはうずくまっていた。

無視しようとしたが、ウキキが助けようと説得してきたためにやむを得ず助けてしまった。


「いや~あの時はお花が取れずに絶望していたのです!だから神様に祈っていたのです!そしたらオリバー様が助けてくれたのです!」

「嬉しそうなのはいいが、質問に答えてくれ。その黄色い花は何に使うんだ?」

「増やすのです!この花の種は食べることが出来るのです!」

「なるほど食料確保か。」

「コロコロ君は農家だもんね。」

「そうなのです!おっと、おもてなしをするのです!こちらでお待ちくださいなのです!」


コロコロが家の中に入ってくるのを見てから周りを見る。

どの家も小さく、装飾はほとんどない。

コボルト村の様に村長の家を分かりやすくしていないのだろうか。


「丁度良かったよね。野宿ばかりにならなくて。」

「そうなんよ。食料も分けてもらえればいいんやけど。」

「そうだな。流石にそろそろ持ってる食料がきる。それに魔王について何か知らないか聞ければいいんだがな。」

「お待たせしたのです!今ご用意させるのです!」


コロコロの声に合わせるように中からコロポックル族の女性が3人姿を見せる。

手際よく次々とコロコロが敷いた布の上に料理を並べていく。

その中には肉のようなものが見え、一気に食欲がわく。


「食べていいのです!どうぞなのです!」

「ああ。じゃあ遠慮なく・・・。」


食べていいと言われたのなら、真っ先に頂くのはこの肉のような食べ物だ。

爺さんが言っていた。『この世で一番うまいのは肉という食べ物だ。』と。

聞いた話では、見た目は茶色い塊に骨が刺さり、香ばしい匂いが辺り一面に漂い、内から食欲を刺激される。爺さんの言った通りだ。

涎が出そうになるのを堪え、噛り付く。

柔らかくも弾力のある歯ごたえが脳を刺激し、骨から奪うように引きちぎって口の中へと運ぶ。

噛めば噛むほど汁が溢れ、舌と喉が喜びに震え、脳から快楽が溢れ出る。

美味い。その一言を口にするのもはばかられる程に、次が欲しい。


「美味しいね、オリバー。」

「あ、ああ。」


ミミに声をかけてもらえなければ無我夢中で頬張っていた。

それほどまでにこの肉という食べ物は美味い。

オーガ族の大好物だと言えるだろう。


「お肉が気に入って頂けて嬉しいのです!他にもこのサヤマメを煮込んだスープも絶品なのです!是非食べて欲しいのです!」


緑色の液状の中に黄色の豆がゴロゴロと存在感を示している。

見た目は少しばかり食欲を削がれるが、勧められたのなら口に入れるべきだろう。

コボルト村で覚えたスプーンを使い、口の中へとスープを運ぶ。

驚いたことに、見た目に反してとても美味い。

スープの旨味の中にある甘みの強いサヤマメ。その二つが織りなす味は癖になる。

だが、やはり肉には勝てない。

肉の美味さに比べれば少々物足りない。


「美味いが、俺にはやはり肉だな。」

「本当だよね~。やっぱ焼きたては干し肉じゃ勝てないよね~。」

「ん?干し肉も肉なのか?」

「そうだよ。知らなかったの?」

「なん・・・だと・・・。」


干し肉も肉だという事実に今更気づいた、いや気づいてしまった。

ということは、既に肉を食べていたということだ。

知らなくてもいい事を知ったような、そんな気がした。



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