第1章17節 幸運と報告
「ふぅ~。」
布の上に並べられた料理は全て無くなり、腹が満たされた。
肉の美味しさに感動を覚え、思い出すために眠りにつきたかったが我慢する。
コロコロに聞かなければならないからだ。
「美味しかったです?」
「ああ。美味かった。」
「それは良かったです!後で大きな布を持ってきますので、こちらでお休みくださいです!」
「わかった。なぁ、コロコロ。」
「なんです?」
「少し聞きたいことがあってな。単刀直入で聞くとだ、魔王について何か知っていることは無いか?」
「まおう・・・です?」
「ああ。」
「う~ん・・・。」
コロコロは腕を組んで唸るが、すぐに諦めの表情を作る。
それが答えなのだろう。
「すみませんです。オイラにはわからないのです。」
「そうか・・・じゃあリザードマンについては知っているか?」
期待は薄いが、聞かないよりはましだろう。
打算的に聞いたので、頭の中では次に向かう場所のことを考えていた。
しかし、コロコロから帰ってきた言葉は想像していなかった言葉だった。
「はい、知っているのです。時々お取引もさせてもらっているのです。」
「そうか。やっぱしらな・・・え?今なんて言った?」
「リザードマンさんは知っているのです。時々お取引もさせてもらっているのです。」
「知って!?はぁ!?取引!?」
「オリバー落ち着いて、ね?」
「あ、ああ。すまない。」
「リザードマンさんがどうかしたんです?」
「いや、あの・・・そ、そいつの居場所は知っているのか?」
「う~ん・・・住んでいる場所は知りませんが、この村にいつ来るかは知ってるです。オイラ達が作った野菜を売ってるのです!」
「いつ来るんだ!?」
「ちょうど明日です!この黄色い花もリザードマンさんに聞いたんです!」
「そ、そいつに会わせてもらえないか!?聞きたいことがあるんだ!!」
「大丈夫だと思うです!確認してみるのです!」
「頼む!」
「良かったねオリバー!」
「おめでとうございます?でいいん?」
「ああ。まさかって感じだな。」
思いがけない幸運に興奮が治まらなかった。
遂にわかるかもしれないのだ、魔王について。
そして成れるかもしれない、魔王に。
目の前の扉が重くのしかかる。
翡翠髪の男は扉に手をかけることが出来ず、何度も深呼吸をしてしまう。
だが、いつまでもそうしてはいられないこともわかっているため、いつもより大きな深呼吸をしてからノックする。
「・・・入れ。」
少しだけ留守であることを願ったが、虚しくも叶わなかった。
頭の中のシミュレーションを再度確認してから扉を開ける。
「失礼します。」
「・・・ああ。近づくことを許す。」
「ハッ!」
深く頭を下げてから仕事中の男の前へと進む。
眉の無い目がジロリと睨むようにこちらを見てくる。
怯みそうになるが、心の中で鼓舞し、堂々と立つ。
「ジェダイト団長代理、報告に参りました。今お時間はよろしいでしょうか?」
「・・・ああ、問題無い。」
オールバックを一撫でしてから男は報告書を机の上に放り投げる。
一瞬だけ見えた報告書の赤い線に、ジェダイトは無意識に緊張する。
「こちらからいくつか質問をする。それに貴様は素直に答えろ。それ以外は答えるな。いいな?」
「ハッ!」
「・・・まぁ、今回の報告書は謎だらけで聞くことが多いがな。」
男はため息をつきながら腕を組む。
数秒の沈黙の後、男は口を開く。
「まず、作戦の結果についてだ。報告書を読ませてもらったが・・・失敗とみていいんだな?」
男の語気が強まる。
震えそうになる体を無理矢理我慢をし、真っすぐに目を見て答える。
「報告書の通り失敗です。」
「・・・それはつまりあれも手に入っていないと?」
「ハッ!申し訳ありません!」
「・・・例の物については何かあった場合、責任は取ってもらう。いいな?」
「・・・ハッ。」
ジェダイトの握られた手が強くなる。
納得しがたいが、これ以上問題は起こせない。
そう、自分を納得させる。
「次の質問だが、爆発についてだ。本当に原因は不明なのだな?」
「ハッ!報告書の通りでございます。」
「魔術、もしくは火薬ではないと?」
「高濃度の魔力反応は確認されました。ですが、あの場に魔術師はおらず、また魔道具というような物はございませんでした。」
「拷問していた男が魔術を使えた可能性もあるのではないか?」
「おっしゃる通り可能性はないとは言い切れません。ですが、あの男は行商人です。魔術の心得があるようにも見えませんでした。」
「ふむ・・・。」
男は引き出しから櫛を取り、オールバックを整え始める。
そのまま何かを思考し、答えにたどり着くと櫛をしまう。
「爆発についての結論を述べる前に次の質問だ。魔獣が姿を見せたのは、本当か?」
男の言葉に、今まで一番の緊張がジェダイトを襲った。
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