第1章15節 原因不明

「・・・っ!!?な、何が起きた!?」


荒れ果て崩れた建物だった場所で目が覚める。

辺りに散乱した瓦礫を見て、少し前の光景を思い出す。


「・・・確か・・・。」


いつも通り執務をこなしていた時だった。

視界を真っ白な光が遮り、轟音が鳴り響いた。

そして次の瞬間には大地を揺るがすほどの振動が襲い、必死に目の前にあるであろう机の下に隠れた、そこまでは覚えている。


「気が付いたらこのありさま、か。いったい何が起きたんだ?」


起き上がろうとして、体の異変に気が付く。


「なっ!!?」


左足が瓦礫の下敷きになってしまっている。

その事を理解すると共に、今まで感じなかったのが嘘のように痛みが全身を襲う。


「グアァァァァッッッッ!!?!?」


痛みに耐えられず、叫んでしまう。

だが、その事で他の兵士が存在に気づいてくれた。


「ふ、副団長!?い、今お助けします!!。」

「は、早くしろッ!!!。」

「ハイ!」


副団長の叫び声で集まった数人の兵士の手によって瓦礫は撤去されたが、左足がもう動かないのは誰の目から見ても明白だった。


「ふ、副団長・・・。」

「憐れむな!それよりも救護班を呼べ!それから状況の整理だ!いったい何が起きたんだ!!」

「は、ハッ!では自分が救護班を呼んでまいります!」

「副団長!安全な場所に移動しましょう。」

「わかったから肩を貸せ!」


先程までの痛みが無くなった訳ではない。

けれど、それよりも優先すべきことが明確になった事により痛みを一時的に忘れることが出来た。



「それで、状況は?」

「ハッ!まだ混乱が続いていますが、現状を述べさせていただきます。まず、何が起きたのかについてですが、拷問室で爆発のような現象が起きたそうです。」

「拷問室で?火薬でも使ったのか?」

「いいえ。あの部屋に爆発するような物はありません。火薬を使った記録もありません。」

「では何故爆発が起きたんだ?」

「・・・これは魔術師たちの話しですが、爆発のような現象が起きる前に高濃度の魔力反応を確認したそうです。が、あの部屋には魔術師を近づけさせていません。あの部屋は拷問官であるムーチン様とその部下だけです。」

「では何故高濃度の魔力反応が確認された?ムーチンに魔術は使えないはずだ。」

「おっしゃる通りです。ですので、あの男が魔術を放ったと考えられます。」

「何だと?それはおかしいだろ。あの男は行商人だ。魔術師ではない。」

「ええ。ですが、魔道具を持っていた可能性が・・・。」

「それもありえん!魔道具は伝説上の代物だ。行商人風情が持っているはずがない。」

「ですがそれでは説明がつきません!」

「ふぅ。確かにそうだな。だが、ありえないことには変わりない。」

「ですが!」

「・・・この話しは後にしよう。埒が明かん。それで、爆発の後は何が起こったんだ?」

「・・・爆発の後には大きな魔獣が姿を見せました。」

「魔獣だと!!?何故そんなものが突然現れるんだ!!」

「わかりません!ですが、事実として現れています!多くの兵士が見ていますので間違いありません!」

「そんな馬鹿な!ありえん!!」


起こりえない現象ばかりに副団長は頭を抱える。

自分の理解範疇を超えるばかりで、頭で認識することを拒否しそうになる。

が、部下が嘘をつく理由がない以上は信じるしかない。


「その魔獣はどうしたんだ?逃げたのか?」

「ハイ。ひとしきり暴れまわった後、何処かへと去って行きました。」

「・・・戦ったのか?」

「ハイ。ですが、どの武器も傷をつけることが出来ず、魔術も効きませんでした。」

「だろうな。魔獣を倒せるのは神聖魔術を帯びた武器か勇者ぐらいのものだ。」

「ハイ。ここまでが起きた出来事です。続いて被害状況ですが、その・・・。」

「何だ?隠さずに言え。もう何を聞いても動じん。」

「は、ハッ!兵士の八割程度が死亡。ムーチン様を含む各隊長の死亡も確認済みです。それから・・・団長も。」

「なに?」

「団長の・・・死亡も確認されました。」

「・・・そうか。」


いつもなら喜んで踊っていただろう。

だが、今は状況が違う。

団長が死亡したことにより、自分が団長代理になるのが確定してしまった。

ということは、この惨状の責任も自分が取らなければならない。

それはつまり、自分の首が飛ぶことを意味する。


「こんなことで死んでたまるか。」

「はい?」

「いやなんでもない。他に報告は?無ければ今の話しを報告書にまとめ、帰還の準備に入れ。」

「よろしいのですか?」

「よろしいも何も、この被害状況で何が出来る?無様に帰国するしかない。」

「わかりました。すぐに取り掛かります。」

「あ~・・・報告書は偽造しておけ。責任は団長の最後の仕事だ。」

「・・・ハッ!」


屑が消えたのは喜ばしいが、自分以外の隊長の座に付いていた者たちが亡くなったのはよろしくない。

これで自分までも責任をとって消されるのは国にとっても損失。


「・・・すぐさま戦力の補強も考えねばな。」


鎮痛剤が効いてきたのかもしれない。

瞼がゆっくりと下りた。

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