第1章3話 村人?との遭遇
「腹、減ったなぁ・・・。」
あれから一週間ぐらい何も食べておらず、飲み水すら見つけられていない。
老オーガの話によれば、木々が生い茂る場所を森と言い、森には甘い木の実やキノコなる香りのいい食べ物が其処ら中にあると聞いていた。だが木の実は見つけられず、キノコらしきものは見つけたが、異臭を放っていたので食べる気にはならなかった。
魚を求めて川を探したがそれも見つからない。
このままではいくらこの体と言えど、動かなくなる恐れがある。
「もう、この木でも
そんなことを考えていた時だった。
「・・・ん?何だ?」
何処かから何かが聞こえる。
「・・・行ってみるか。」
音を立てないように何かが聞こえる方向に向かってゆっくりと近づいていく。
「フンフフ~ン~。」
近づくにつれ、それが歌声だとわかる。
「そう言えば闘技場では吟遊詩人なる人間にナイフで刺されながら唄われたな。」
もしかしたらそいつがいるのかもしれない。
だとしたら食料を持っている可能性がある。
「今度はこっちの番だな。」
必要は無いが一応拾っておいたナイフで・・・。
その思いを胸に唄っている者の正体を確認する。
だが、そこに吟遊詩人はいなかった。
「何だあれは?」
そこにいたのは人間とは思えない耳を持ち、尻からは毛の塊のようなものが生えてゆらゆらと動いている。よく見ると、顔も人間とは違う。
「そう言えば爺さんが言っていたな。世界には人間とは違う耳を持ち、尻からは尻尾なるものが生えた動物という生き物がいると。俺たちが食っていた肉は動物から取れるものだって。だがあいつは・・・。」
確かに耳や顔は人間とは違うし、尻尾も生えているから動物とも思える。
だが、体は人間の女だ。老オーガの話しでは動物は体も人間とは違うらしい。
つまり、あそこにいるのは・・・。
「俺と同じ魔族かもしれないな。しかも女だ。どうする・・・。」
このまま何も見なかったことにしてここから立ち去るか。
魔族だろうが、女だろうが関係なく襲って食料を奪うか。
はたまた魔族なら話し合いに応じてもらえるかもしれないから食料を分けてもらうか。
どの選択肢を取るべきか。いや、そもそも立ち去るという選択肢は必要ないだろう。
「このままじゃあ腹は満たされない。あの女には悪いが・・・。」
話し合いを装って近づこう。相手が妙な動きをしようとした瞬間にこのナイフで襲おう。
そう決めてすぐに行動する。ナイフを取り出しやすいように腰布に忍ばせ、音を立てないようにゆっくりと近づく。幸いなことに相手はまだ自分に気づいていない。
ゆっくり、ゆっくり近づいていく。
「フンフフ~・・・ん?」
女の動きが止まった。上を向いて何かをしている。
「何を・・・ッ!!?臭いか!?」
オーガの体臭は毎日洗わなければとても臭い。と、老オーガは言っていた。
実際にその通りで、最初の頃はその悪臭に慣れず、何度か吐いてしまった。それが永い間コロセウムで過ごすうちに鼻が麻痺して臭いを気にしなくなっていた。
完全なるミスだ。
「え?」
振り向いた女と視線が合う。
不味いと思った時には既に遅かった。
「ンギャアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!?!?」
叫ばれてしまった。このままでは仲間を呼ばれてしまう。
「クッソ!!」
殺すしかない。叫ばれた以上、仲間が集まって来てからではどうすることもできないかもしれない。走れ。今は少しでも早くあの女の息の根を止めねば・・・。
その思いが体に最後の力を振り絞ってくれる。
「あと少しだ。あと少しでこの女を・・・!!」
残り後腕二本分の距離。このままナイフを引き抜き、喉元に突きつければ・・・。
「マラ様だあぁぁァァァァァァァァッッッッ♡♡」
歓喜に震える女を横目に産まれて初めて頭からこけた。
先程まで殺そうと思っていた気持ちを変な言葉と嬉しそうな声によって削がれてしまった。
「ああ!?マラ様大丈夫?」
「あ、うん。いや、そうじゃなくて。」
「ん?」
「あの、え?何言ってんだお前?」
「何が?」
「マラ、さま?誰だそれは?」
「え?貴方のことだけど?え!?もしかして雌だった!?それだったらごめんね!」
「いや、うん。雄だけど。え?それが何でマラ様?」
「え?だって・・・雄なら立派なマラがついてるでしょ♡」
「(この女、今変な目で俺の下半身を見なかったか?)ついてるって・・・
確認の為、立ち上がって腰布を取り、男物を見せる。
正直、コロセウムにいたオーガの中では一番大きかったので少しだけ自慢でもある。
「ああぁぁ♡こんなに立派なマラ様♡産まれて初めて・・・ハァハァ♡」
女の吐息が男物にかかった瞬間、男物から脳天に向かって電流が走った。
初めての感覚に戸惑ってしまう。
「な、なんだ今のは!?」
不思議な感覚が危険に思えてしまい、急いで腰布を巻き、男物を隠す。
「ああ!?マラ様が・・・。」
何なんだこの女は。
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