第2章1.5節 勇者、召喚される。
『ようこそ、勇者。』
頭の中で優しくも冷たい声が響くが、辺りには誰もいない。
見えるのは何処までも拡がる草原のみ。
実に気持ち悪い。
『ようこそ、勇者。』
何か答えなければずっと続きそうな声に、ため息が出てしまう。
せっかく気持ちよく昂っていた気分は目絵の前の光景で冷め、何もしたくなくなる。
『ようこそ、勇者。』
こちらの事などまったく考えていないこの声に多少の苛立ちを覚えつつ、応答することにする。
『ようこ「聞こえてるっつうの!」・・・お目覚めの気分はいかがですか?』
「最悪だよ。ここは何処だ?」
『そこは狭間。何処でもありません。』
「狭間?訳わかんねぇよ。俺はどうなったんだ?」
『それは前世の事でしょうか?それとも今現在の状態でしょうか?』
「両方だ!」
『・・・前世での貴方は自身の快楽の為に銃乱射事件を起こし、たまたま跳ね返った弾が運悪く心臓に到達。その末の出血多量により肉体は機能を停止しました。ですが、貴方の魂は生き続けてしまいこちらで引き取りました。現在は貴方の魂の
「たまたま、ね。んで、俺は復活でもすんの?」
『厳密には復活とは似て非なるものですが、そのような認識で問題ありません。』
「選定中ってあんたは言ったけど、俺に選択権はねぇの?俺は別に死んでもいいんだけど?活きたい人生でもねぇし、またあの屑親のような糞みたいな場所になんか産まれたくねぇけど?」
『・・・貴方はあの世界ではなく、こちらの世界で召喚されます。貴方は死を望んでいるようですが、魂が強すぎて死ねません。仮に死にたいのであるならばそれ相応の手段を使われなければなりません。』
「は?なに異世界に転生するってこと?それってどんなマンガだよ。」
『マンガ。貴方の世界での娯楽であり、貴方が想像している通りのことがこれから起きるということで間違いはありません。』
「なになに?俺って勇者ってこと?ハハハハ!こんな殺人鬼が勇者って!!ハハハハハハ!傑作じゃん!!!」
『・・・。』
「・・・は?マジ?俺が勇者なのかよ!?冗談じゃねぇぇぇぞ!!!!」
『貴方に拒否権はありません。もちろん、選択権もありません。恨むのであるならばご自由に・・・選定完了。』
「は?今なんて!?おい!!」
目の前の草原が崩れていくのが見える。
逃げようと動こうとしたが、草原は円を描くように崩壊している。
その為、逃げ場など存在しない。
「クソが!おいテメェ!!勇者なんかに俺をすんじゃねぇぇぇぇ!!!!」
少年の声が響き渡るが、先程までの声は聞こえない。
思いつく限りの罵詈雑言を吐きながら、暗い穴の中へと落ちていった。
「・・・目覚め・・・ゆう・・・。」
結局少年はこの世界に召喚された、勇者として。
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