第2章2節 魔王になるには・・・。

これ以上、余計なことは考えないようにオリバーは頭を掻いてリセットする。


「あ~・・・とにかく!ここに魔王の魂があったってことだな?」

「ええ。その通りです。」

「でも、今は無いんだな?」

「ええ。ですから・・・。」

「ちょっと待ってくれ。それがどうして俺が魔王に成れないって話になるんだ?」


オリバーの問いに、少し考えてからリザードマン族の村長は口を開く。


「まず、魔王はこの世に一個体としてしか存在できません。それはご理解いただけていますか?」

「いや知らない。」

「魔王の存在はそれだけで人間族にとっては大きな脅威になりえるのでしょう。故に、魔王が復活する時は必ず勇者も復活します。」

「勇者・・・。」

「その歴史は後世にも伝えられていますが、ほとんどの者は多くを知りません。ですが、賢人たちはそれを後世に残す努力はしています。その歴史から見ても魔王が複数体いたという記録も勇者が複数人いたという記録もございません。ですので、魔王は一個体でしか存在できないのではないかと我々は思うのです。」

「だから俺は魔王に成れないって言うのか?」

「それだけではありません。我々はこうも考えております。魔王に成るためには魔王の魂に選ばれなければならないのではないか、と。」

「魂が、選ぶ?意思でもあるのか?」

「我々はあると考えています。そして、既に魔王の魂は器を選びました。」

「だからガラス玉は割れたと?」

「ええ。その通りです。」

「じゃあ選ばれた奴が死ねば俺が魔王に成れるのか?」

「・・・わかりませんが、可能性は低いと思われます。」

「過去に前例がないってことか?」

「ええ。魔王の魂がいつ目覚めて、誰を器として選ぶのか。その法則のようなものがあるのかさえ、我々にはわかりません。」


申し訳なさそうに項垂れている顔からも嘘はついていないとオリバーは判断する。

それはつまり、オリバーが魔王に成れないことを認めることになる。

初めてできた目的がこうもあっさりと失われてしまうと、何とも言えない喪失感に苛まれる。


「・・・聞くだけ無駄かもしれないが、その覚醒ってのは何だ?」

「覚醒というのは歴代の魔王たちの力を使えるようになるということです。」

「力が使えるようになる?何でお前は、いやお前らは魔王が覚醒していないって何でわかるんだ?」

「そうですね・・・この祭壇のてっぺんに祀られている武器は見えますか?」

「ん?ああ、あの大きな斧のことか?」

「あれは“竜鱗戦斧スケイルシュナイデン”という我々の宝です。」

「それが何なんだ?」

「かつて魔王が振るった武器でもあります。」

「魔王が!?」

「ええ。“竜鱗戦斧スケイルシュナイデン”は主と認めたものにしか力を振るいません。この武器は主と魂でつながるのです。」

「・・・要するに魔王が覚醒しているのならばこの武器が何かしらの反応するって言いたいのか?」

「その通りです。」


つまり覚醒しているかどうかの根拠はほとんどないということだ。

魔王がまだ覚醒していない可能性もある。

いや、そもそも魔王に成るのに魔王の魂は必要なのだろうか?

だったら最初の魔王はどうやって魔王へと至ったのだろうか?


「・・・どうやら頭を悩ます結果になってしまったようですね。」

「・・・少し頭の整理をしてから再度伺ってもいいか?」

「構いません。」


オリバーは小さく頭を下げ、その場を後にした。

それから数日、オリバーたちはリザードマンの集落に滞在をした。

その間、オリバーは部屋に籠ってずっと考えこんでいた。


「・・・彼には申し訳ないことをしてしまったようデスネ。」

「何が?」

「あれから数日も部屋に籠っているということは、彼は落ち込んでいるのではないのデスカ?」

「う~ん・・・違うと思う。」

「違う?どうしてそう思うのデスカ?」

「オリバーと仲良くなってまだまだ少しだけど、落ち込んでいる姿を見たことが無いからかな。」

「そ、それだけデスカ?」

「うん!それにオリバーだったら何でもできると思うんだ~。」

「その根拠はなんデスカ?」

「妻の勘、かなぁ。えへへ~。」


惚気を聞いてしまい苦笑したが、納得もしてしまっている。

不思議と、オリバーにはそう思わせる何かがあると感じ始めているラグだった。


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