第2章1節 リザードマンの村
荷台に揺られながら移動すること数時間。
いつの間にか周りの景色は森から湿地に代わり、そして現在は湿地の中にある丘を登っている。
少し前までは夏の暑さに近い乾いた気候だったのに、今ではじんわりと肌を濡らすほどの湿気と肌寒い冷気に満ちている。
オリバーはオーガの特性なのかあまり感じないが、ウキキやミミは寒さに震え、借りた毛布に包まっている。
「着きマシタ。ここが我々の村デス。」
丘を越えた先の盆地のような場所。
周りを岩壁で囲んだ要塞のようなこの場所がラグたちの村だ。
ラグが手を振ると、重い扉がゆっくりと開かれる。
「今戻っタ。変わりはナイ。ただ、客人を招いタ。」
「理解シタ。こちらも変わりはナイ。」
互いの会釈すると、すんなりと村の中へと入れた。
「ここがリザードマンの村か。」
村の中はとても静かだった。
子供たちの声はほとんど聞こえず、武器の打ち合う音とぼそぼそと話し声が聞こえるだけ。
明らかな警戒の様子に流石のオリバーも荷台から姿を見せないようにする。
「申し訳ナイ。我々はここ数十年ぐらい客人を村に招いたことが無いノダ。」
「気にするな。むしろこれまでが不思議だったぐらいだ。」
「そう言ってもらえると幸いデス。このまま村長の下へとお連れシマス。」
「ああ。」
「・・・オリバーさん、貴方に一つだけ嘘をつきマシタ。」
「・・・嘘?」
「ええ。実は魔王は現在、現世にその姿を見せようとしているのデス。」
「・・・は?どういう意味だ?」
「魔王に成りかけている存在がいるということデス。つまり、このままでは貴方は魔王に成れない可能性が高い、ということデス。」
「成れないって・・・あくまで可能性なんだな?」
「・・・はい。ですが非常に高いデス。」
「そうか。」
「申し訳ナイ。」
「ま、村長に詳しく聞いてみるさ。ラグには二人をお願いしていいか?」
話しているうちに着いた村長の家の前でオリバーは降りる。
ラグは頷き、オリバーは家の中へと入って行った。
入ると、目の前には長い廊下らしきものが見えるが、暗くてよくわからない。
「すまない!誰かいないだろうか!」
少しだけ大きな声で呼びかけると、奥の方から蝋燭に火が付き、目の前にはいつの間にか見たことの無い鳥が立っている。
オリバーがそれに気づくと、鳥は歩き出す。
数歩進んで止まり、振り返ってこちらを見てくる。
まるでついてこいと言っているようである。
オリバーはその鳥の後に続いて廊下を進んで行く。
廊下は真っすぐではなく、何度も曲がり、方向感覚が分からなくなってきた頃に扉の前に着く。
鳥が嘴で器用にノックすると、扉は開かれた。
扉の先には大きな祭壇があり、そこには祈るように座る誰かがいた。
「あんたが村長か?」
オリバーの問いかけに、ゆっくりと振り返る。
真っ白なうろこに覆われたリザードマン。
眼は虚ろっぽく見えるが、こちらをしっかりと捉えているのを感じる。
「・・・いかにも、私がこの村の村長です。」
しわがれた声だが、女性だと分かる。
「そ、そうか。女の村長って多いんだな。」
不意にコボルト族の村を思い出す。
「ふっふっふ。それは長く生きている魔族に雄がほとんどいないからですよ。先の戦争でほとんど亡くなっています。」
「そうだったのか。」
「それで、貴方はここへ魔王についてお知りになりに来たのでしょう。」
「ああ。」
「お教えしても構いませんが、残念なことに貴方が魔王に成ることはありません。」
「ッ!!?ど、どいうことだ!?」
「既に現世に魔王が復活してしまったからです。最も、覚醒へとは至っていないようですが。」
「魔王が!?覚醒!?ちょっと待て!話についていけねぇよ!!」
「そうですか?では、貴方からの質問にお答えする形でお話を進めて行きましょう。どうぞ、質問してください。」
「ちょっと待ってくれ!」
オリバーは深呼吸をし、頭の中を鮮明にしていく。
先程の話しで既に魔王は復活してしまった、それは事実なのだろうか。
そして覚醒とは何なのか。そもそもどうして魔王が復活したから自分は成れないのだろうか。
ゆっくりと整理し、質問を練り上げていく。
その様子を村長は静かに見守る。
「・・・とりあえず、この場所は何なんだ?」
オリバーは平静を保つためにまずは当たり障りのない質問から始める。
そのことを予見していたかのように村長は口を開く。
「ここは我らが魔王様を祀るための祭壇です。魔王様はこの地で亡くなり、先程までお眠りについていました。」
「先代の魔王がここで亡くなったのか?」
「ええ。」
「眠っていたというのは?」
「これをご覧ください。」
村長の手の先には割れた大きなガラス玉のようなものが見える。
「・・・それは?」
「この中で魔王の魂は眠りについていたのです。」
「このガラス玉の中でか?」
「ガラス玉・・・なのかは不明ですが、この中でお眠りになっていました。私たちはこれを‟魔王のゆりかご”と呼んでいました。」
またわからない言葉が出てきて、オリバーは頭を悩ませた。
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