第1章6話 キングの資質

「ヒャヒャヒャ。驚くのも無理ないさね。急に魔王に慣れると言われても驚くだろうよ。じゃが、魔王というのはそもそも産まれも重要になってくるんじゃよ。誰もが魔王に成れると思っておるならばそれは間違いじゃ。魔王に成れるかどうかは産まれた時には決まってしまうんじゃよ。それが‟キングの資質”じゃ。」

「・・・何故俺がキングの資質があると思うんだ?単なるオーガかもしれないぞ?」

「・・・キングの資質はね、種族の特性に影響を及ぼすんじゃ。本来そうあるべき生物が本来は持ちえないものを有して産まれてしまうんじゃ。それが何かは産まれてくるまでわからないし、成長するまでわからなかったりする。じゃが、ある程度の事は歴史が教えてくれる。例えばコボルトならば、巨体を有した雄とか、さね。」


確かにコボルトは全体的に大きくはない。人間の子供と大人の中間ぐらいの大きさだ。コボルトの男も大きさがさほど変わらないのなら、巨体を有する時点で確かに種族の特性というものに影響があるのだと思う。

だが、自分がそれに当てはまるとは思えない。仮に自分自身にキングの資質なるものがあるのならば、老オーガにもあったはずだ。ならばコロセウムの試合で殺されてしまうことも無いはずだ。

魔王に成れるのならば力だって他とは違うのではないか?と、考えてしまうから。

だから自分にはキングの資質は無いと思う。


「仮に俺にキングの資質があるとして、それが知性なのか?だとしたら俺にはキングの資質は無いと思う。コロセウムには俺以外にも知性のあるオーガはいたからな。」

「ほほう?では自分にはキングの資質は無いと?そう言うのかい?」

「・・・端的に言えば、そうだ。」

「じゃが、現に種族特性でないはずの知性がある。はたして、それはどういうことを意味するのじゃろうな。」

「ならば逆に聞くが、何故爺さん、老オーガはコロセウムで死んだ?魔王に成れるのならば力はあったんだろ?」

「なるほどのぉ。お主はキングの資質について確かに何も知らないようじゃな。」

「・・・どういうことだ?」

「資質はあくまで資質。何度も言うが、魔王に成れる才能じゃ。ということは可能性もあるんじゃよ。」

「・・・意味が分からん。俺にもわかりやすく話せよ婆さん。」

「そうじゃなぁ・・・お主は植物の種がどのようにして成長するか知っておるか?」

「いや。」

「植物の種は土の中に埋められ、水を与えられる。土に含まれる栄養と水分によって発芽、つまり芽が外に出てくる。そしてその芽はこれまで通り土に含まれる栄養と水分に加えて、太陽から栄養を貰う。そうすることで、植物は成長し、美しい花を咲かせたり、立派な木に成ったり、時には作物を実らすのじゃ。わかるかのぉ?」

「・・・何となく理解してきた。つまり、キングの資質は種と同じで、何かしらの栄養、つまり発芽するために必要なものがあるってことだな?」

「その通りじゃ。それがあくまで‟魔王に成れる才能”ということじゃ。」

「なら爺さんは・・・。」

「キングの資質はあったのかもしれんが、育たなかったんじゃな。気の毒にのぉ。」


オーガである自分にはキングの資質がある可能性がある。だが、それを開花させなければ魔王に成ることは無い。だから魔王の数は多くは無いし、先代の魔王が死んでから今この時まで魔王が現れないのだろう。


「なら、俺は魔王に成れるのか?」

「あくまで可能性じゃがな。」

「どうすれば成れる?」

「・・・すまんが知らぬのじゃ。コボルトから魔王に成ったという話は無く、また先代の魔王であった者も、どのようにして魔王に成ったかは不明なんじゃよ。」

「そうか・・・。」

「じゃが、知っているかもしれない連中には心当たりがある。」

「何?そいつらは何処にいるんだ?」

「居場所は知らぬ。じゃが、先代の魔王は元々‟リザードマン”じゃったそうじゃ。」


リザードマン。老オーガの話しでは男と女で見た目が少し違うらしい。

男のリザードマンは龍の首に、全身を覆えるほどの翼、強靭な尻尾、2メートルはある背丈、手には強固な爪、全身を鱗なるもので守られているらしい。

逆に女のリザードマンは人間と変わらない首に、男のような翼はない。男に比べれば細い尻尾に背丈も人間と変わらない。手の爪は強固だが、鱗は一部にしかないらしい。


「その様子じゃリザードマンについては話さなくても良さそうじゃな。」

「ああ。だが、何処にいるかは俺も知らない。」

「あ奴らは湿地もしくは高山を好むのじゃ。その辺りを探してみればいずれ出会えるであろうな。」

「そう願おう。」

「では次は“はぐれ”について話そうかね。」


キングの資質。それが自分にあるのならば、旅の目的はリザードマンに出会う、ということになりそうだ。

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