第1章5話 コボルトの村の村長
ミミが住んでいる村。入り口には申し訳程度のバリケードを築き、敵の侵入を阻害している。慣れているミミは軽やかにバリケードを避けていく。慣れていないと今の自分みたいにかなり手間取ってしまうので役割は果たしていそうだ。
そのバリケードを超えたところには、これもまた申し訳程度の小さな門が待ち構えている。こちらは脆そうだ。
「ただいまー!」
ミミの声に反応し、小さな窓から顔が覗く。
「おお!ミミじゃないかい!ん?後ろのは・・・もしかして雄かい!?」
「うん!私が見つけたんだ~。」
「やるじゃないかい!今開けるよ!」
声色からたぶん女のコボルトだろう。ハツラツな声と共に門が開く。
出迎えた二人のコボルトたちはどちらも女だ。
「へ~。オーガじゃないか!」
「オーガは精力もかなり強い。ミミ、良い雄を見つけたな。」
「でしょ~。って言っても私もたまたま声をかけられたんだけどね。」
「ま、どっちでもいいじゃないかい。雄がこの村に来るのは大歓迎さ。」
男というだけでここまで歓迎されると、なんか裏を感じてしまう。
警戒は怠らないようにしよう。
「・・・っと、あれは何だ?」
門をくぐり抜けると、明かりが増々強くなる。
その要因は天井にある光り輝いている大きな岩のようだ。
「あれが“
「たいようせき?」
「うん。太陽の光を溜めておくことが出来る石なんだって。この洞窟に決めたのもあの大きな太陽石があったからなんだって。」
「どこから太陽の光を溜めてるんだ?」
「あの上、太陽石の頭の部分は外に出てるんだって。」
「なるほどな。あれは一日中明るいのか?」
「うん。でも、眠るのには困らないよ?ポカポカして気持ちいいし。」
「昼寝と同じようなもんか。」
「さ!まずは村長の家だよ!」
上機嫌のミミは鼻歌まじりに歩き出す。
先に腹を満たしたかったが、この村のルールかもしれないので、一応従っておく。
「・・・まるで見せ物、コロセウムの時と同じだな。」
村の中を歩くと、家という家からコボルトたちが顔を出してこちらを見てくる。
好奇心を抱く者、怪訝な表情を浮かべる者、変な昂揚を見せる者など様々だが、何故か男が見当たらない。幼い者の中には男を見かけるが、それも圧倒的に女の方が多い。門を守護していた者も働いていた者もそうだが、この村を回しているのは女たちだ。男は何をしているのだろうか。
「着いたよ!ここが村長の家!」
村長ということもあって村の中では一番大きな家だ。
過度に見える装飾は力を示しているのだろう。
なんとなく強そうに感じる。
「そ~んちょ~!」
「何じゃ、ミミかい。」
家の中は外とは違い、落ち着いた雰囲気だ。
装飾もほとんどなく、生活に必要な物だけがある・・・ような気がする。
正直、寝る場所さえあれば十分と思っている自分には物が多いと感じてしまう。
「ん?なんと!?ミミが雄を連れてきておるわい!?」
「へへ~ん!」
「・・・オリバーだ。」
「ふむふむオリバーか。見たところお主はオーガじゃが、知性はあるようじゃな。感心じゃ。」
「やはりオーガは頭が悪い印象か?」
「印象というよりも種族としての特性じゃからな。致し方あるまいて。じゃが、稀に知性を有したオーガは産まれる。‟キングの資質”を持ってな。」
「キングの資質?何だそれは。」
「おや?知らないのかい?お主の村では知る者はいなかったのかい?」
「俺に住んでいた村はない。」
「・・・‟はぐれ”かい?」
「(またしても知らない言葉だ。この婆さんからなら俺の知らないことを聞けるかもしれないな。)はぐれ、という言葉も知らない。それもどういう意味だ?」
「ふ~む。ミミ、あんたは家の掃除でもしてきな。あたしゃこいつと色々話そうと思うからね。」
「む~・・・盗らないでよ?私の雄。」
「盗るかい!!?あたしゃもう年だよ!?さっさとお
「は~い。」
イタズラな笑みを浮かべてミミは出て行く。
そんなミミを呆れたように息を吐きながら村長は見送る。
どうやらこの村では村長の指示には従ったほうが良いようだ。
「さてさて。あんたの質問に答えていこうかね。」
「助かる。」
「まずはそうさね。キングの資質について話そうかね。」
勧められるがままに椅子に座らされる。
初めての椅子は少し硬いが、足が楽ではある。
「さて、キングの資質だがね。簡単に言えば‟魔王に成れる才能”さね。」
「ま、魔王ッ!!?」
突然の魔王発言に、何故だが胸が熱くなるのを感じた。
この高揚はいったい・・・。
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