第1章7話 旅の目的
あれからすっかり遅くまでコボルトの婆さんに話を聞いてしまった。
婆さんから聞く話は得られるものが多く、これから生きていくのに必要な知識を数多く有することが出来た。感謝しても感謝しきれない恩が出来た。
何か自分にできる恩返しをしたいが、出来ることは無さそうにも思う。
この村には致命的な欠陥が多く、中でもとりわけ大きいのは二つ。
一つは男のコボルトがほとんどいない事。
婆さんの話しでは、男のコボルトたちは狩りに出て帰って来ていないらしい。
その理由は恐らく人間の仕業だろう。
このコボルトの村はあの死体置き場に近い場所だ。そこから考えられるに男のコボルトたちは偶然人間に見つかり、捕まったかもしくは殺されてしまったのだろう。
そう考えるのは、冒険者と呼ばれる人間たちがコボルトやゴブリンを好んで狩っているというのをコロセウムで見張りをしている奴らが話しているのを聞いたことがあったからだ。
だからここで待っていても男のコボルトは帰ってこない。
そうすると、ここの村の防衛は現状でもかなり弱いことが想像できる。
門番の役目を女のコボルトに任せている時点で何となく察してはいたが酷いものだ。
人間に攻め込まれれば、この村は簡単に崩壊するだろう。
それは二つ目も要因となる。二つ目の致命的な欠陥は逃げ道が無いということだ。
この洞窟は反対側に抜けていない。一番奥に位置するのは村長の家らしい。
つまり、攻め込まれればこの村は受け止めるしか選択が無いということだ。
仮に男のコボルトがいたのならまだ戦えていたのだろう。しかし、現状この村には女のコボルトがほとんどだ。女が男より弱いということは魔族なら当たり前に知っていることで、人間もそれを理解している。
「・・・せっかく見つけた村だが、食べ物を貰い次第逃げよう。」
この村に恩はあれど、命を懸ける程でもない。
ぼんやりとだが、旅の目的も出来たのだから仕方がない。
「確か村長の家から数えて左の四番目の家・・・ここか?」
隣とは少し離れて小さな家が建っている。中からは鼻歌が楽し気に聞こえてくる。
遠慮せずに中に入ると、良い匂いと共にミミの後ろ姿が眼に入る。
「あ!ようやく来たね!おかえり!」
「あ、ああ。」
「遅かったけど、何してたの?」
「話していただけだ。婆さんの話は俺にとってとても有意義なものだったからな。」
「ふ~ん・・・もしかして、惚れた?」
「・・・どうしてお前はそっち方面でしか考えられないんだ?」
「仕方ないじゃん!雄って今はとても貴重なんだよ!村長だって毎日のように雄が欲しいって言ってたもん!!」
「それは戦力的な意味で・・・いや、とにかくあの村長に惚れることは無い。年老い過ぎだ。」
「本当に?」
「本当だ。」
「じゃあ信じてあげるから私と子作り、しよ?」
「・・・どうしてそうなるんだ?俺とお前は今日であったばかりだぞ?」
「関係ないよ。だって雌は強い雄の子供を身籠るのが嬉しいんだもん。オリバーはオーガだから強いんでしょ?だったらオリバーの子を産めるのは私たち雌にとって喜びなんだよ!だから、ね?」
「・・・こうまで価値観が違うと疲れるな。とにかく!俺はお前との間に子供を作るつもりは無い。」
「えーーー!」
「それよりも腹が減ったんだ。その美味そうな匂いのするものを食わせてくれ。」
「いいよ!じゃじゃ~ん!」
ミミが上機嫌に机の上に置いたのは何かの魚料理のようなものだ。
今まで腐った魚しか食べてこなかったからか、とても美味しそうに見える。
「遠慮なく食べてね。」
「ああ。いただく。」
手掴みで食べようとしたが、皿の横に変な先が尖ったものが置いてあるのが眼に入った。
「・・・これは?」
「え?フォークだよ。」
「ふぉぉく?」
「フォークだよ。それを使って食べるの。こんな風にね。」
魚に尖った方を刺し、ミミはひょいっと口の中に運ぶ。
真似してみると、意外と食べやすい。
「・・・美味いな。」
「でしょ!」
あの木の実と何かを混ぜたものが焼いた魚に塗ってあり、それが魚の臭みを軽減し、ほんのり甘みを与えてくれている。木の実だけではこの味は出せないだろう。
何よりも魚とは本来こういう味なのだと感動を覚えてしまう。
腐った魚は表現に難色示してしまうが、これは口から零れるように美味しさを伝えてしまう程だ。これまで食べてきたものが魚では無いと言われても信じてしまいそうだ。それほどにこの魚は美味い。
「・・・おかわりを頼めるか?」
「いいよ!いっぱい食べてね。そして・・・ふへへ♡」
何やらいやらしいものを感じるが、腹は空いている。
だから遠慮せず食べよう。次はいつ食べれるかわからないのだから。
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