第2章11.5節 勇者、王国に帰還す
「・・・つまり、かの洞窟には伝説の剣は無かったと。間違いは無いのか?勇者よ。」
豪華絢爛な部屋の中央、大きな机を挟んで勇者は初老の男性と話をする。
和やかな雰囲気はなく、二人の周りは剣を携えた兵士に囲まれている。
だからこそ、勇者は居心地の悪さを隠さずに態度で示す。
「おっしゃる通りですよ~陛下~っと。あの洞窟には何もありませんでした。報告終わり!帰っていいか?」
その態度に周りの兵士からは敵意のこもった視線を集め、男性の横にいる中年の男性からは殺意のこもった視線を向けられる。
だが、そんなことはどうでもいいように勇者は耳の中を指で掻く。
「ふむ・・・して、今後はどのように動くのだ?勇者よ。」
「う~ん・・・それが問題なんっすよね~。と、言うのも情報が無いんですよ。だから動けないんで、陛下に貰った屋敷で寝てようかなって思ってまーーす。」
「貴様ッ!!なんなんださっきからその態度はッッ!!!!」
怒りが爆発した中年男性が剣に手をかけると同時に、初老男性の手が重なる。
初老男性を見れば、首を横に振って矛を収めるように促されてしまう。
その光景を勇者は馬鹿にしたように笑って見ている。
「団長さんよ~俺だって情報があれば動くんだぜ?けど、情報が無くちゃ動きようもねぇんだわ。それとも、団長さんにはあるんですかね~伝説の剣の情報が。」
「ぐぬぬ・・・!」
「勇者よ、こちらの情報不足は謝罪する。が、不用意に挑発するのは止めてはくれぬか?」
「ま、努力はするわ。」
「心遣い、痛み入る。」
陛下の態度に兵士たちは自身の怒りを我慢する。
それは団長も同じであった。
「んで、話は変わるんだけどさ・・・神聖武器の件はどうなってんの?」
“神聖武器”という言葉が出た瞬間、部屋の空気が変わる。
先程までとは違い、集まっていた視線が一気に無くなる。
チラリと団長を見れば、そっぽを向いて下手くそな口笛を披露してくる。
「・・・すまないが、向こうからの返事はない。」
重い口を開いたのは陛下だった。
「こちらか何度か要請してはおるが、向こうからは返事は未だにない。現在、再度要請をするつもりだ。だからいましばらく待ってくれぬか?勇者よ。」
「いや俺は別に構わねぇんだけどよぉ。ただ、あの大きい魔物は待ってはくれねぇんじゃねぇの?今も侵攻を続けてんだろ?」
「うむ・・・。」
「ここに戻ってきた時に見たけどよぉ。壁の外にまで難民がいたぜ。」
「国民には申し訳ないと思うが、こればかりはどうしようもないこと。今は外の巡回を増やすしかない。」
陛下の申し訳なさそうな顔に勇者はそれ以上は何も聞かず、その場を立ち去るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます